明ぼのやしら魚しろきこと一寸 芭蕉
白魚を初めて食べたのは、50年も前
秋田へ旅した時で、男鹿の宿で踊り食い
というものが出た。目が大きく見え、
勢いよく跳ねるのを見て食べることが
できなかった。今思えば惜しいことだ。
芭蕉がこの句を詠んだのは、秋10月
桑名の浜で舟遊びをして、白魚を
掬ってとった時のことである。
白魚の成魚は二寸、季語は春だが、
一寸と詠むことで、時期が秋であること
を示している。つまり白魚がまだ成魚に
なる前の命のはかなさが主眼である。
芭蕉は「野ざらし紀行」の旅で帰郷し
たのは、亡くなった母の追善のためで
あった。老いた母の白髪を思い、その
命のはかなさと小さな白魚の命を重ねた
ところに句の意味がある。