21日の早朝、最後の小屋泊りが明け、朝の日が小屋にあたっていた。主稜線の縦走が終り、この日は小屋から古寺鉱泉へと下山する日である。聞き古した言葉ではあるが、登山での事故は80%が下山時に起きている。小屋からは名水の銀玉水で水を補給し、小朝日は熊越で巻道を通って古寺山、花抜峠への分岐で一服清水で喉を潤したあと沢ヘ下りて、古寺鉱泉に至る。コースタイムで4時間、我々の足であれば休みを入れて6時間の道のりだ。三日間の稜線歩きで疲れた足には、決して易しい道ではない。だが、縦走でなく大朝日岳へ登るにはこのコースか、小朝日から鳥原山をへて古寺に至る道も多くの人に登られてきた。この道を歩いてしっかりコースの道順を記憶しておくにはいい機会である。谷を雲海が埋めて、景観にほどよいアクセントがついた。春から下り道の歩き方を練習してこの日に備えてきた。その甲斐あってか、足の筋肉には下りに耐えるゆとりがついている。転倒の心配もなく、順調に高度を下げる。
古寺山で振り返ると、巻いてきた小朝日の登山道が見えた。古寺山から花抜き峠まで、地図ではすぐに着くように見えるが、下りは延々と続く。Nさんが、ハナヌキまでくれば後は楽な下りだよ、と言うがそのハナヌキ分岐が遠い。コースタイムは40分とあるが、多分小1時間であろう。やっとの思いで分岐を越えて、沢音が聞こえてきた。深い山を降りてきて、沢音を聞くのは終点が近づいている目安でもある。12時を過ぎて朝日鉱泉に着いた。沢筋の道を行くとかって営業していた温泉宿が、当時の姿は残しては朽ちかけながら、鉱泉の俤を伝えている。4日間、JPSの歩行距離をみると累計で29.9㌔と示されている。よくぞ、この道のりを歩き通した、わが足をほめてやりたい。
お花畑どこまで続く縦走路 瀧澤ちよこ