ほたる
さみだれやこぐらきやどのゆふされをおもてるまでもてらすほたるか
(蜻蛉日記・巻末家集~バージニア大学HPより)
さつきやみさはへのくさはしけけれとかくれぬものはほたるなりけり
(六条右大臣家歌合~日文研HPより)
ほたるひはこのしたくさもくらからすさつきのやみはなのみなりけり
(和泉式部集~日文研HPより)
五月やま木のしたやみに飛ふ蛍空にしられぬほしかとそみる
(建長八年九月十三日・百首歌合~日文研HPより)
夕されば野沢にしげる葦の根のしたにみだれてとぶ蛍かな
(文保百首)
暮るるより露とみたれて夏草の茂みにしけくとふ蛍哉
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
江蛍
波くらき入江の芦にみかくれて有るかなきかの蛍火の影
(草根集~日文研HPより)
水辺蛍
なかれ行く音もすすしき山河の岩間かくれにとふほたるかな
(宝治百首~日文研HPより)
百首歌奉し時 前関白左大臣
底きよき玉江の水にとふ蛍もゆるかけさへ涼しかりけり
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
江上蛍火
すたきゐる萍(うきくさ)なからみさひ江にさそふ水あれは行く蛍かな
(草根集~日文研HPより)
水辺蛍
身より猶あまる思ひをさそふ水ありとやここにほたるとふらん
(宝治百首~日文研HPより)
ものおもふ心のうちは夏草のしげみにもゆるほたるなりけり
(光経集)
蛍随風過
色みえぬ風の心ももえわたる思ひをつけてゆく蛍かな
(正徹詠草切~「古筆手鑑大成」)
かくしえぬおもひそしるきおくやまのいはかきふちにあまるほたるは
(嘉元百首~日文研HPより)
露ながらもゆる蛍はあさぢふのをのがおもひや身にあまるらむ
(前摂政家歌合)
桂のみこに、式部卿の宮すみたまひける時、その宮にさぶらひけるうなゐなむ、この男宮をいとめでたしと思ひかけたてまつりけるをも、え知りたまはざりけり。蛍のとびありきけるを、「かれとらへて」と、この童にのたまはせければ、汗衫の袖に蛍をとらへて、つつみて御覧ぜさすとて聞えさせける。
つつめどもかくれぬものは夏虫の身よりあまれる思ひなりけり
(大和物語~新編日本古典文学全集)
寄蛍恋を 藤原為道朝臣
終夜(よもすから)もゆる蛍に身をなしていかて思ひの程もみせまし
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
たれかしるしのふのやまのたにふかみもゆるほたるのおもひありとも
(藤河五百首~日文研HPより)
物思ほしけるころ、蛍の飛び交ふを御覧じて 御垣が原のみかどの御歌
身を換ふる一つ思ひの夏虫もいと我ばかり焦がれやはする
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
玉鬘の尚侍のもとに立ち寄りて侍りけるに、六条院、几帳の帷(かたびら)に蛍を包み置き給ひて、うち掛け給へば、にはかに光るを、ほどなく紛らはし隠しければ 蛍兵部卿のみこ
鳴く声の聞えぬ虫の思ひだに人の消(け)つには消ゆるものかは
返し 尚侍
声はせで身をのみ焦がす蛍こそ言ふにもまさる思ひなるらめ
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
ほたるをよみ侍りける 源重之
をともせて思ひにもゆる蛍こそ鳴虫よりも哀なりけれ
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
男にわすられて侍けるころ貴布祢にまいりて、みたらし河に蛍のとひ侍けるをみてよめる いつみしきふ
物思へはさはのほたるもわか身よりあくかれ出る玉かとそみる
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
蛍
此世にてもゆる蛍はおもひ川うたかた誰にあはて消えけん
(草根集~日文研HPより)
おぼつかなたが身をなげし魂ならむ千尋の谷に蛍とぶかげ
(心敬集)