軒より庭に飛下、東西南北見廻ば、四季の景気ぞ面白き。
(略)
西は秋の心地也、萩女郎花花薄、枝指かはす籬の内、朝は露に乱つゝ、夕は風にやそよぐらん、梢につたふ■(むささび)、庭の白菊色そへて、窓の紅葉々濃薄し、妻喚鹿の声すごく、虫の怨も絶々也。
(源平盛衰記~バージニア大学HPより)
中宮の御町をば、もとの山に、紅葉の色濃かるべき植木どもを添へて、泉の水遠く澄ましやり、水の音まさるべき巌立て加へ、滝落として、秋の野をはるかに作りたる、そのころにあひて、盛りに咲き乱れたり。嵯峨の大堰のわたりの野山、無徳にけおされたる秋なり。
(源氏物語・乙女~バージニア大学HPより)
御前の前栽にも、春は梅の花園を眺めたまひ、秋は世の人のめづる女郎花、小牡鹿の妻にすめる萩の露にも、をさをさ御心移したまはず、老を忘るる菊に、衰へゆく藤袴、ものげなきわれもかうなどは、いとすさまじき霜枯れのころほひまで思し捨てずなど、わざとめきて、香にめづる思ひをなむ、立てて好ましうおはしける。
(源氏物語・匂兵部卿(匂宮)~バージニア大学HPより)
あきのうたのなかに 前大僧正実承
月残り露またきえぬ朝あけの秋の籬の花のいろいろ
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
弘安百首歌奉りける時 後九条内大臣
浅茅生の霜夜の虫も声すみて荒たる庭そ月はさひしき
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
つきそなほつゆのよすかもたつねけるよもきかにはのまつむしのこゑ
(摂政家月十首歌合~日文研HPより)
弘安元年百首歌奉りける時 後西園寺入道前太政大臣
暮ゆけは虫のねにさへ埋れて露もはらはぬ蓬生の宿
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
ふるさとはかせのすみかとなりにけりひとやははらふにはのをきはら
(秋篠月清集~日文研HPより)
さらぬたにはらはぬにはのさひしきにひとはをちらすあきかせそふく
おともせてきりはかりふるにはのおもにたれををはなのまねきたつらむ
(廿二番歌合_治承二年八月~日文研HPより)
まねけとてうゑしすすきのひともとにとはれぬにはそしけりはてぬる
(新勅撰和歌集~日文研HPより)
四日、例の所に渡りたれば、見ざりつる程に、荻薄も、萩の籬(ませ)なども、みなこぼれにければ
我が宿は菅原野辺となりにけりいかにふし見て人のゆくらん
(和泉式部続集~岩波文庫)
さとあれてまかきのつゆのたまゆらもはきのさかりをとふひとはなし
(沙玉集~日文研HPより)
秋の庭はらはぬやどに跡たえて 苔のみ深くなるぞかなしき
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)
あきくれてわかみしくれとふるさとのにははもみちのあとたにもなし
(拾遺愚草~日文研HPより)
心地重くわづらひ侍りけるころ、風すごく吹き出でたる夕暮に、前栽見るとて、いささか起きゐたるを、院のうれしとおぼしたるも、つひにはいかがおぼし騒がむとあはれにて 紫の上
おくと見るほどぞはかなきともすれば風に乱るる萩の上露
六条院御歌
ややもせば消えを争ふ露の世に後れ先立つほど経ずもがな
明石の中宮
秋風にしばしとまらぬ露の世をたれか草葉のうへとのみ見む
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
秋の庭は掃(はら)はず藤杖(とうぢやう)に携(たづさ)はりて 閑(しづ)かに梧桐(ごとう)の黄葉(くわうえふ)を踏んで行(あり)く
(和漢朗詠集~岩波・日本古典文学大系)