電話はいつだって突然に鳴り出す。
しかし、その相手が意外な場合、
「突然の電話だった。」
そんな言い方をするだろう。
3月中旬だ。
まさに、突然の電話だった。
「あの、伊達市社会福祉協議会のNと言うものです。」
若干オットリとした口調の女性からだ。
「協議会で老人クラブ連合会の担当をしています。」
家内は朗読ボランティアで、
社会福祉協議会と若干関わりがあった。
しかし、私は全くつながりがない。
ましてや、老人クラブなど縁遠いものと思っていた。
電話口で対応に戸惑っていると、彼女は切り出した。
「お願いがあって、お電話しました。
来年度早々なんですが、
老人クラブ連合会の女性部で、講演会を計画しています。
そこで、講師をしていただきたいのですが・・。」
何かの間違いではないか。
聞き返した。
「えっ、私にですか。」
「そうです。是非、お願いしたいのですが・・」
それまでに、誰からも何の打診もなかった。
訳がわからないまま、尋ねた。
「どんなお話を・・ですか?」
「最近、長生大学で講演をされたそうですが、
その時のような、楽しいお話が聞きたいんですが・・。」
「楽しい話?・・・、そうですか・・。
それでテーマとかは・・。」
「特に・・・・。あの時のお話を聞けなかった方々から、
是非にとの声がありまして・・・。」
まさかまさかだ。
昨年12月に、市の長生大学で講演する機会に恵まれた。
そのことが、こんな展開になるとは思いもしなかった。
「皆さんのお役に立つような立派なお話なら、ちょっと無理・・。
でも、日々の暮らしの体験談でよければ・・。」
彼女は、急に明るい声になった。
「5月下旬か6月上旬で、お願いできませんか。」
「それは・・、いつだってサンデーですから私は・・。
大丈夫ですが・・。」
そこからは、月日と講演時間、会場が決まるまで、
時間はそれ程要しなかった。
そして、「では、よろしくお願いします。」
彼女のオットリとして電話の声は、
それで終わった。
ところが、受話器を置いてから、
日に日に不安が増した。
1つは、参加者だ。
老人クラブ連合会女性部としての講演会は、
今回が初めての企画だと言う。
なので、出席者は30人から100人を予想しているらしい。
その参加規模は気にならなかった。
しかし、全てが60歳以上の女性なのだ。
気になった。
私にとって、初めて経験する参加者の顔ぶれなのだ。
雰囲気が、想像できなかった。
教員や保護者など、教育関係者を対象にしたものとは、
大きくかけ離れていた。
「これは、難しい!」
もう開き直るしかなかった。
「出たとこ勝負!」
それ以外に、方法が見つからなかった。
そして、もう1つの不安は、
「長生大学の時のような」と言う依頼内容であった。
実は、40歳代の頃だ。
ある年の夏休みに、教員対象の研修会で講師を務めた。
同じようなテーマで、日にちを替えて2会場で行うことになった。
「もしかしたら、同じ先生が参加したりするのでは・・。」
そう思い、2回目は骨子を変更しないまま、
内容を少し変えて講演に臨むことにした。
1回目は、順調に進んだ。
しかし、数日おいての2回目は、気持ちに随分と違いがあった。
手慣れた感じで、言葉だけが先行する話し方になってしまった。
当然、聞いている方の心まで届かないのだ。
消化不良のまま、講演を終えた。
今回は、同じ失敗を避けたかった。
そのため、同じような体験談でも、同じように日々の暮らしからでも、
骨子から練り直すことにした。
そして、新鮮な思いで語れるようにと心がけた。
さて、私なりの準備を整え、当日が来た。
午後1時半からの講演だ。
会場は、自宅から車で5分のところだ。
駐車場に停車して、会場の玄関を見た。
小雨模様の中、何人もの方が会場に入って行った。
中には杖をついた方、家族の車で送ってもらった方もいた。
私の話を聴くだけ、それだけに集まってくれている。
胸が詰まった。
「私のできることは・・?
それは、用意してきた話に心を込めること!」
改めて思いを確かめながら、会場に入った。
ほぼ満席だった。
矢っ張り、同世代かそれ以上の女性ばかりだ。
顔見知りが多いようで、
小声の会話からは、和やかさが伝わってきた。
徐々に、雰囲気が理解できた。
「これはスローテンポで、話さなければ・・」
そう気づいた。
用意してきた講演メモの上段に、
赤字で『スローテンポで』と書いてから、
話し始めた。
途中、何カ所も省略しながら、話を進めることになった。
ゆっくりと、間をおいて話した。
加えて、長生大学とは違う丁寧さで語りかけた。
すると、時間だけがどんどんと過ぎた。
仕方ない。若干未消化のまま、次へ次へと進んだ。
そんなくり返しで、1時間半が過ぎてしまった。
予定していたことの、6割しか話せなかった。
申し訳ないと思いつつ、
最後を何とかまとめ、話し終えた。
なのに、大きく長い拍手を頂いた。
「もっと聴いていたかった。」
「すごく楽しかったです。ありがとうございます。」
わざわざそんな声を残してくれた方々がいた。
疲労感を忘れた。
だが、時間計算の甘さに悔いだけが、
いつまでも残った。
ところが、それから数日後、
社会福祉協議会のNさんより丁寧なお礼の手紙が届いた。
そこにこんな1文があった。
『普段何気なく通り過ぎてしまう出来事や言葉にも、
たくさんの感動が詰まっているのだと実感し、
人との出逢いに感謝する大切さを教えていただきました。
先生のお話に会員の皆さんも
笑い、共感し、多くの気付きがあったものと思います。
心温まる素敵なお話を伺うことができ、
心より感謝申し上げます。』
礼状だと分かっている。
それでも、私の思いを真っ直ぐにキャッチしてくれていた。
嬉しさがこみ上げた。
伊達に来て、7年が過ぎた。
まさかまさかの展開は、今後も続くのだろうか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/43/e33b046966524c353d97950f2b567c0e.jpg)
自宅のアルケミラ 今が満開
しかし、その相手が意外な場合、
「突然の電話だった。」
そんな言い方をするだろう。
3月中旬だ。
まさに、突然の電話だった。
「あの、伊達市社会福祉協議会のNと言うものです。」
若干オットリとした口調の女性からだ。
「協議会で老人クラブ連合会の担当をしています。」
家内は朗読ボランティアで、
社会福祉協議会と若干関わりがあった。
しかし、私は全くつながりがない。
ましてや、老人クラブなど縁遠いものと思っていた。
電話口で対応に戸惑っていると、彼女は切り出した。
「お願いがあって、お電話しました。
来年度早々なんですが、
老人クラブ連合会の女性部で、講演会を計画しています。
そこで、講師をしていただきたいのですが・・。」
何かの間違いではないか。
聞き返した。
「えっ、私にですか。」
「そうです。是非、お願いしたいのですが・・」
それまでに、誰からも何の打診もなかった。
訳がわからないまま、尋ねた。
「どんなお話を・・ですか?」
「最近、長生大学で講演をされたそうですが、
その時のような、楽しいお話が聞きたいんですが・・。」
「楽しい話?・・・、そうですか・・。
それでテーマとかは・・。」
「特に・・・・。あの時のお話を聞けなかった方々から、
是非にとの声がありまして・・・。」
まさかまさかだ。
昨年12月に、市の長生大学で講演する機会に恵まれた。
そのことが、こんな展開になるとは思いもしなかった。
「皆さんのお役に立つような立派なお話なら、ちょっと無理・・。
でも、日々の暮らしの体験談でよければ・・。」
彼女は、急に明るい声になった。
「5月下旬か6月上旬で、お願いできませんか。」
「それは・・、いつだってサンデーですから私は・・。
大丈夫ですが・・。」
そこからは、月日と講演時間、会場が決まるまで、
時間はそれ程要しなかった。
そして、「では、よろしくお願いします。」
彼女のオットリとして電話の声は、
それで終わった。
ところが、受話器を置いてから、
日に日に不安が増した。
1つは、参加者だ。
老人クラブ連合会女性部としての講演会は、
今回が初めての企画だと言う。
なので、出席者は30人から100人を予想しているらしい。
その参加規模は気にならなかった。
しかし、全てが60歳以上の女性なのだ。
気になった。
私にとって、初めて経験する参加者の顔ぶれなのだ。
雰囲気が、想像できなかった。
教員や保護者など、教育関係者を対象にしたものとは、
大きくかけ離れていた。
「これは、難しい!」
もう開き直るしかなかった。
「出たとこ勝負!」
それ以外に、方法が見つからなかった。
そして、もう1つの不安は、
「長生大学の時のような」と言う依頼内容であった。
実は、40歳代の頃だ。
ある年の夏休みに、教員対象の研修会で講師を務めた。
同じようなテーマで、日にちを替えて2会場で行うことになった。
「もしかしたら、同じ先生が参加したりするのでは・・。」
そう思い、2回目は骨子を変更しないまま、
内容を少し変えて講演に臨むことにした。
1回目は、順調に進んだ。
しかし、数日おいての2回目は、気持ちに随分と違いがあった。
手慣れた感じで、言葉だけが先行する話し方になってしまった。
当然、聞いている方の心まで届かないのだ。
消化不良のまま、講演を終えた。
今回は、同じ失敗を避けたかった。
そのため、同じような体験談でも、同じように日々の暮らしからでも、
骨子から練り直すことにした。
そして、新鮮な思いで語れるようにと心がけた。
さて、私なりの準備を整え、当日が来た。
午後1時半からの講演だ。
会場は、自宅から車で5分のところだ。
駐車場に停車して、会場の玄関を見た。
小雨模様の中、何人もの方が会場に入って行った。
中には杖をついた方、家族の車で送ってもらった方もいた。
私の話を聴くだけ、それだけに集まってくれている。
胸が詰まった。
「私のできることは・・?
それは、用意してきた話に心を込めること!」
改めて思いを確かめながら、会場に入った。
ほぼ満席だった。
矢っ張り、同世代かそれ以上の女性ばかりだ。
顔見知りが多いようで、
小声の会話からは、和やかさが伝わってきた。
徐々に、雰囲気が理解できた。
「これはスローテンポで、話さなければ・・」
そう気づいた。
用意してきた講演メモの上段に、
赤字で『スローテンポで』と書いてから、
話し始めた。
途中、何カ所も省略しながら、話を進めることになった。
ゆっくりと、間をおいて話した。
加えて、長生大学とは違う丁寧さで語りかけた。
すると、時間だけがどんどんと過ぎた。
仕方ない。若干未消化のまま、次へ次へと進んだ。
そんなくり返しで、1時間半が過ぎてしまった。
予定していたことの、6割しか話せなかった。
申し訳ないと思いつつ、
最後を何とかまとめ、話し終えた。
なのに、大きく長い拍手を頂いた。
「もっと聴いていたかった。」
「すごく楽しかったです。ありがとうございます。」
わざわざそんな声を残してくれた方々がいた。
疲労感を忘れた。
だが、時間計算の甘さに悔いだけが、
いつまでも残った。
ところが、それから数日後、
社会福祉協議会のNさんより丁寧なお礼の手紙が届いた。
そこにこんな1文があった。
『普段何気なく通り過ぎてしまう出来事や言葉にも、
たくさんの感動が詰まっているのだと実感し、
人との出逢いに感謝する大切さを教えていただきました。
先生のお話に会員の皆さんも
笑い、共感し、多くの気付きがあったものと思います。
心温まる素敵なお話を伺うことができ、
心より感謝申し上げます。』
礼状だと分かっている。
それでも、私の思いを真っ直ぐにキャッチしてくれていた。
嬉しさがこみ上げた。
伊達に来て、7年が過ぎた。
まさかまさかの展開は、今後も続くのだろうか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/43/e33b046966524c353d97950f2b567c0e.jpg)
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