ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

まさかまさかの 展開

2019-06-15 20:54:51 | 北の湘南・伊達
 電話はいつだって突然に鳴り出す。
しかし、その相手が意外な場合、
「突然の電話だった。」
そんな言い方をするだろう。

 3月中旬だ。
まさに、突然の電話だった。
 「あの、伊達市社会福祉協議会のNと言うものです。」
若干オットリとした口調の女性からだ。
 「協議会で老人クラブ連合会の担当をしています。」

 家内は朗読ボランティアで、
社会福祉協議会と若干関わりがあった。
 しかし、私は全くつながりがない。
ましてや、老人クラブなど縁遠いものと思っていた。

 電話口で対応に戸惑っていると、彼女は切り出した。
「お願いがあって、お電話しました。
 来年度早々なんですが、
老人クラブ連合会の女性部で、講演会を計画しています。
 そこで、講師をしていただきたいのですが・・。」

 何かの間違いではないか。
聞き返した。
 「えっ、私にですか。」
「そうです。是非、お願いしたいのですが・・」

 それまでに、誰からも何の打診もなかった。
訳がわからないまま、尋ねた。
 「どんなお話を・・ですか?」
「最近、長生大学で講演をされたそうですが、
その時のような、楽しいお話が聞きたいんですが・・。」

 「楽しい話?・・・、そうですか・・。
それでテーマとかは・・。」
 「特に・・・・。あの時のお話を聞けなかった方々から、
是非にとの声がありまして・・・。」

 まさかまさかだ。
昨年12月に、市の長生大学で講演する機会に恵まれた。
 そのことが、こんな展開になるとは思いもしなかった。

 「皆さんのお役に立つような立派なお話なら、ちょっと無理・・。
でも、日々の暮らしの体験談でよければ・・。」

 彼女は、急に明るい声になった。
「5月下旬か6月上旬で、お願いできませんか。」
 「それは・・、いつだってサンデーですから私は・・。
大丈夫ですが・・。」

 そこからは、月日と講演時間、会場が決まるまで、
時間はそれ程要しなかった。
 そして、「では、よろしくお願いします。」
彼女のオットリとして電話の声は、
それで終わった。

 ところが、受話器を置いてから、
日に日に不安が増した。

 1つは、参加者だ。
老人クラブ連合会女性部としての講演会は、
今回が初めての企画だと言う。
 なので、出席者は30人から100人を予想しているらしい。
その参加規模は気にならなかった。

 しかし、全てが60歳以上の女性なのだ。
気になった。
 私にとって、初めて経験する参加者の顔ぶれなのだ。

 雰囲気が、想像できなかった。
教員や保護者など、教育関係者を対象にしたものとは、
大きくかけ離れていた。
 「これは、難しい!」

 もう開き直るしかなかった。
「出たとこ勝負!」
 それ以外に、方法が見つからなかった。

 そして、もう1つの不安は、
「長生大学の時のような」と言う依頼内容であった。

 実は、40歳代の頃だ。
ある年の夏休みに、教員対象の研修会で講師を務めた。
 同じようなテーマで、日にちを替えて2会場で行うことになった。

 「もしかしたら、同じ先生が参加したりするのでは・・。」
そう思い、2回目は骨子を変更しないまま、
内容を少し変えて講演に臨むことにした。

 1回目は、順調に進んだ。
しかし、数日おいての2回目は、気持ちに随分と違いがあった。
 手慣れた感じで、言葉だけが先行する話し方になってしまった。
当然、聞いている方の心まで届かないのだ。
 消化不良のまま、講演を終えた。

 今回は、同じ失敗を避けたかった。
そのため、同じような体験談でも、同じように日々の暮らしからでも、
骨子から練り直すことにした。
 そして、新鮮な思いで語れるようにと心がけた。

 さて、私なりの準備を整え、当日が来た。
午後1時半からの講演だ。
 会場は、自宅から車で5分のところだ。

 駐車場に停車して、会場の玄関を見た。
小雨模様の中、何人もの方が会場に入って行った。
 中には杖をついた方、家族の車で送ってもらった方もいた。

 私の話を聴くだけ、それだけに集まってくれている。
胸が詰まった。
 「私のできることは・・?
それは、用意してきた話に心を込めること!」
 改めて思いを確かめながら、会場に入った。

 ほぼ満席だった。
矢っ張り、同世代かそれ以上の女性ばかりだ。
 顔見知りが多いようで、
小声の会話からは、和やかさが伝わってきた。

 徐々に、雰囲気が理解できた。
「これはスローテンポで、話さなければ・・」
 そう気づいた。 

 用意してきた講演メモの上段に、
赤字で『スローテンポで』と書いてから、
話し始めた。

 途中、何カ所も省略しながら、話を進めることになった。
ゆっくりと、間をおいて話した。
 加えて、長生大学とは違う丁寧さで語りかけた。
すると、時間だけがどんどんと過ぎた。

 仕方ない。若干未消化のまま、次へ次へと進んだ。
そんなくり返しで、1時間半が過ぎてしまった。
 予定していたことの、6割しか話せなかった。

 申し訳ないと思いつつ、
最後を何とかまとめ、話し終えた。
 なのに、大きく長い拍手を頂いた。

 「もっと聴いていたかった。」
「すごく楽しかったです。ありがとうございます。」
 わざわざそんな声を残してくれた方々がいた。

 疲労感を忘れた。
だが、時間計算の甘さに悔いだけが、
いつまでも残った。
 
 ところが、それから数日後、
社会福祉協議会のNさんより丁寧なお礼の手紙が届いた。
 そこにこんな1文があった。

 『普段何気なく通り過ぎてしまう出来事や言葉にも、
たくさんの感動が詰まっているのだと実感し、
人との出逢いに感謝する大切さを教えていただきました。

 先生のお話に会員の皆さんも
笑い、共感し、多くの気付きがあったものと思います。

 心温まる素敵なお話を伺うことができ、
心より感謝申し上げます。』

 礼状だと分かっている。
それでも、私の思いを真っ直ぐにキャッチしてくれていた。
 嬉しさがこみ上げた。

 伊達に来て、7年が過ぎた。
まさかまさかの展開は、今後も続くのだろうか。




   自宅のアルケミラ 今が満開   
コメント
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