ワンダースター★航星記

写真を撮るとは、決して止まらない時間を止めること。旅や日常生活のインプレッシブな出来事を綴ったフォトエッセイ集です。

黒猫のいるホテル ~ロシア・ウラジオストク紀行 ⑭

2019-09-28 | ロシア紀行

黒猫のいるホテル ~ロシア・ウラジオストク紀行 ⑭

  「あたしの名前はブスチャ。

  シビルスコエ・ポドヴォリエ・ホテルの看板猫よ。

  まあ、この街では、一番、有名な猫って、とこね。

  嘘じゃないわ。

  なんなら、“ウラジオストク ブスチャ” て、ググってみなさいよ。

  “ブスチャ”の意味?

  人間の言葉はよくわからないけど、これだけの美貌だもの。

  “ブス”ではない筈よ。

   あたしは、正真正銘の“看板猫”!

  ほら、ご覧なさい。」

「 あたしは看板猫だけど、やってくる旅人には、けっして、媚びないわ。

  ただ、彼等をじっと、観察するのが趣味ってとこね。

 近頃はロシア人だけじゃなく、外国からも、たくさん、やってくる。

 いつも、騒がしいあの人たちばかりじゃなく、日本からもやってくる人が増えたようね。

 先日も変な日本人が来た。

 いきなり、やってきて、挨拶もそこそこに、あたしを撮りだすのよ。

 あたしのモデル料は高いんだから。

 宿泊料に上乗せするわよ。」

 「安眠妨害もいいとこよ。

 あんまり、迷惑だから、ちょっと、威嚇してみたの。」

 「 ところが、あいつときたら、ひるむばかりか、“おうおう、一丁前に” とか言って、ますます、ずうずうしく、撮りだす始末よ。

 それも、毎晩のように、やってきてはよ!」

「 ついには、あたしをダシにフロント嬢にまで、ちょっかいだすのよ。

 ほんとにスミにおけないわ。あいつ。」

「 あたしは、あいつを無視することに決めたわ。

  寝たふりよ。

  ほんとに熟睡してることもあるけど。」

 「 "オラオラって”、尻尾で、挑発されたって、無視よ。無視。」

 「 でもね。無視を決め込んでいた、あたしなのに、本能には逆らえなかった。

  カメラの下げ紐がブラブラしてるのが、無視できなかったの。

  そう、″猫じゃらし” に見えてしまったのよ。

     思わず、飛びついてしまったわ。」

 「まあ、仕方ない。

 悔しいけど、本能だから。

 そうこうしているうちに、あいつ、お別れの挨拶にきた。」

「 旅人だから、いつか、帰ってしまうのは当たり前。

 ホテルの看板猫だから、そんなことは日常茶飯事のこと。

 そう思うんだけど、今回だけは淋しい。

 やなヤツだと思っていたのに、どうしてなのかしら?」

 

  

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