徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

桜花散るを惜しまぬ人やある

2022-04-01 23:08:53 | 日本文化

本妙寺の桜

 桜もだいぶ散り始めた。舞い散る花びらもまた風情があってよし。毎年のことながら、儚い桜の季節が過ぎ去ろうとしている。そしてまた人々は来年の桜を楽しみに待つ。延々と繰り返される人の営みである。
 この時季には決まって
「春雨の降るは涙か桜花散るを惜しまぬ人しなければ」
という大友黒主の歌を思い出す。

 この歌を引用した謡曲(能)が「熊野(ゆや)」。平宗盛と愛妾熊野は花見にやって来たが、病の床に臥す故郷の母への思いで熊野は沈みがち。春爛漫の中、心ならずも酒宴で舞を舞っていると、急に時雨が来て、花を散らしてしまう。熊野は母を思う歌を詠む。その歌はかたくなな宗盛の心に届き、ようやく帰郷が許される、というお話。

 夏目漱石はこの謡曲「熊野」がお気に入りだったようで後架(便所)の中でも呻っていたという。その様子は「吾輩は猫である」の中に描写されている。


能「熊野」


「熊野」を思い出すと必ず舞踊曲「桜月夜」も合わせて思い出す。「桜月夜」は「熊野」の世界を舞踊化したもの。