日本の昔話であまりお目にかかれないキャラクターに吸血鬼があります。
吸血鬼と娘という組み合わせは欠くことができない要素のようです。
魔女がでてくる結末はハッピーエンドに終わることが多いのですが、吸血鬼の場合は、どこかせつない感じの終わり方をします。
(バルカンの昔話/八百板洋子 編・訳 ルデイ・スコチル 画/福音館書店/2007年初版)から吸血鬼がでてくる話。
・吸血鬼に恋した娘(ブルガリア)
秋の収穫祭のとき、村に一人の若者がやってくる。村の白い花のような娘カリンカは、若者に熱いまなざし向け、それからふたりで逢瀬をかさねる。若者が自分のことを何もいわないため、娘は若者のあとをつけ、若者の正体は吸血鬼であることがわかるが、会いたい気持ちをとめることができない。若者が「この前の晩、みただろう。正直に言わないと君の一番大切な人が死ぬよ」といわれて、カリンカは何もみていないとこたえます。
次の朝、父親が冷たくなりますが、それでもカリンカは若者に会いたくて夜になると家をでていきます。母親も弟もなくなってしまうがそれでもカリンカは若者に会いたい気持ちが止められません。
しかしある朝、村の人は花嫁衣装を着て冷たくなっていたカリンカを発見します。
それから春になると娘の家の庭先にいままで見たこともないような赤い花が咲いたという。
・青い炎の館(ルーマニア)
ある娘が乗った馬車が大きな雷で谷底に落ちてしまいますが、美しい若者に助けられます。娘は若者が好きになり、若者から結婚を申し込まれますが、実はこの若者、吸血鬼。
秘密を知った者を殺すのが吸血鬼の掟ですが、この若者は娘を逃がします。
こうもりに姿をかえた吸血鬼どもが娘を殺そうとしますが、若者は十字架をかざして吸血鬼を防ぎますが、十字架をかざした若者のからだを金色の光がつつみ、まっ黒な森の中に燃え上がります。
それいらい、古い館はいつも青白い炎につつまれたようになります。
・吸血鬼の花よめ(ブルガリアの昔話/八百板洋子 編・訳 高森登志夫・画/福音館文庫/2005年初版)
バルカンの昔話の同じ訳者が訳されていて、福音館文庫にあります。
王さまの三人目のお姫様がりっぱな身なりの若者の求婚をうけて結婚することになりますが、この王女は若者の正体をよく見極めないまま、王さまの手をふりきって、むかえの馬車にのって、城を去ります。
墓石の下にある青い炎が燃えている部屋にいき、パンを一口食べると、急に眠くなります。
光のさしこまない部屋で若者をまって、何か月かすぎますが、姫は一度も夫の姿をみることができません。
若者は、毎晩花よめのところにやってきて、一番どりが鳴くと、どこかへ行ってしまうのです。
若者は姫に求婚したときに、吸血鬼におそわれ、魂をうばわれていたのです。吸血鬼は姿を見られた人間を生かしておくと、自分の身が滅びてしまうのですが・・・。
前の二つの話は、せつない終わり方をするのですが、この話では、姫が若者のことをおもって、ふかい祈りをささげると、墓の下で、冷たくなって命が絶えた若者が生き返ってハッピーエンドになります。
三人の王女をスイカにたとえ、一番大きなスイカはあまく熟れすぎ、二番目はちょうど食べごろで、一番小さなスイカはすこし早すぎという表現は、他の昔話にはみられません。
相手に結婚の承諾をするとき、リンゴで若者の肩を打つ場面もあります。
若者が姫に求婚したときに、吸血鬼が魂を奪うのは、嫉妬だったのでしょうか。
ブルガリアは長い間、ローマやトルコに支配されたので、文化の面でも他のスラブ諸国と別の道をあゆみ、独自のものをつくりあげたというのですが・・・。
吸血鬼が登場する話は、もっとあってよさそうにも思いますが、目につく限りでは翻訳されているのは少ないようです。