死んだかいぞく/下田昌克/ポプラ社/2020年
よっぱらった海賊が船の上で、腹を刺され、ゆっくり海に沈んでいく。死んだ海賊は、意識はあるが、からだは自分の思う通りにならない。
「死んでいるならいらないだろう」と、サメは帽子を、しわしわの魚は歯を、小さな魚は爪を、アンコウは目ん玉を、たこは髪の毛を、そしてたくさんの魚に食べられ、海賊は、骨だけに。
生きている間は、大勢の人間を殺め、ほしいものはすべて手に入れただろう海賊が、次々に奪われる側へ。
「ぜったいにやらんぞ」「ちくしょう」から「おれさまは ほんとうに 死んでしまったようだから、もう、なんにも いらないか」 「このまま ここで うみを ながめながら すごすのも いいかもしれないな」と、自分の死を受け入れる心境の変化。
「幸福の王子」は、天国にいくが、海賊はサンゴに生まれ変わる。
沈んでいくうちに、海の色が微妙に変化。骸骨は笑っているようだ。
剣を刺されながら海の底に沈んでいく海賊にぎょっとし、「オレは おまえみたいな まずそうなのは くわないよ」「わしゃ としを とっちまって、おまえなんて たべられないよ」と、おちょくるのに、にやにやしていると だんだんと死を諦観するようすに、これは大人の世界か?と気づかされる。
もし死んでも意識があると考えると、生きているあいだを どう過ごすかと 問いかけられているのかも。