遠い野ばらの村/作・安房直子 絵・味戸ケイコ/偕成社文庫
ちょとした病気でおかみさんをなくしたお百姓の三十郎さんは、五歳の初美、三歳の志津、まだ赤んぼうの政吉をかかえ、畑仕事、子どもの世話、ご飯の支度、掃除、洗濯を全部ひとりでしました。だれがもこのことを知りません。隣の家とはだいぶはなれ、したしい親戚もなかったのでした。
おくさんをなくしてひと月もすると、三十郎さんも病気で寝込んでしまいました。
こんなとき、小さな紫のふろしきつづみをしょって、真っ白いエプロンをかけためんどりが三十郎さんの家にやってきました。それは何年も前に庭のとり小屋からにげだして、それっきりどこへいったのかわからないにわとりでした。
めんどりは「おてんとさまの国に行ってました。」と、すずしい顔。
それから家の仕事はぜんぶめんどりが。おかゆを作り、土間のすみっこのわらたばのところでたまごを一つ生むと四人前の卵焼きをつくり、畑からねぎを一本一とってくると味噌汁をつくりました。
みんながたべているあいだには洗濯です。もちろん縫い物も。
めんどりは、眠れない初美に、おてんとさまの国のことを話してくれました。そして押入れのなかにはいると、星もみせてくれます。
めんどりがやってきてからは家の中は、きちんと整頓され、汚れ物は真っ白にあらわれ三十郎さんも元気になって畑仕事をするようになりました。
ところが半年を過ぎた頃、三十郎さんは苦しかったことをわすれ不満をもつようになります。ごはんのおかずが、たまごと漬物ばかりなのが気にいらなくなり、初美がめんどりと楽しそうにしていることが心配になりました。
そんなある日のこと、村のよろずやのおばさんがやってきて、「子どもたちには、どうしても母親が必要さ。」と、三十郎に再婚をすすめます。
婚礼の日、めんどりを殺して料理することを思いついたのは、このおばさんでした。
めんどりは、婚礼の前の日、すべての料理を用意しました。
婚礼のその日、めんどりの姿はありませんでした。
新しいおかみさんが、三羽のひよこをかうと、どんどん大きくなり、十一月のある日、三羽のにわとりはふわりと空へとびあがあがっていきます。初美は「おてんとさまの国にいくんだよ」といい、「また来ておくれよ。エプロンかけて、魔法の道具持って、いつかきっと、来ておくれよう。」と大声で叫びます。
三十郎は苦しい時期を助けてもらったのにもかかわらず、喉元を過ぎれば感謝の気持ちがなくなるのはずいぶん身勝手。
めんどりと初美の楽し気なようすが続きますが、多分初美にとって、めんどりは母親そのものだったのでしょう。
世話好きのおばさん、ちょっと前にはよくみられました。
めんどりが縫物をする姿、ちょっと想像できません。