京都さんぽ.13 ~壁の街~

2011-11-07 13:45:24 | 京都さんぽ

普段は公開されていない寺院のいくつかが特別公開になるとのことで、この機会に京都へ見学に訪れました。行先は、これまで何度も訪れている大徳寺。

大徳寺はいくつかの寺院が集まって成り立っている、いわば街のような風情をもつ寺です。そのなかにある、聚光院、孤篷庵、真珠庵といった寺院に訪れるのが、今回のぼくの目的でした。

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京都の寺はたいがいの場合がそうですが、背の高い塀が巡らされていて、なかの様子をうかがい知ることができません。大徳寺も、街並みに対して高い塀で囲まれ、そのなかの寺院各々がさらに塀で囲まれています。ですが、塀の上や切れ目から、緑や庭や建物の気配が顔をのぞかせていて、それが独特の情感を醸し出しています。大徳寺境内の道は折れ曲がりながら続いていて、大げさにいえば迷路のようでもあるのですが、歩き回るごとにいろいろな風景が現れては消え、独特の見え隠れの美しさがあります。

塀のひとつひとつをよく見ると、いろいろなデザインがあることがわかります。土壁や石壁のほか、古い瓦を埋め込んだ壁などもあり、レヴィ・ストロースの言うところの「ブリコラージュ」としての表現も見られて、興味は尽きません。

見えないことで喚起される、秘めやかで予感めいた雰囲気が、大徳寺の境内には満ちています。そして、それを形づくるひとつひとつの塀や敷石、樹木のひとつひとつに至るまでが、簡素でありながらもしっとりとした質感をもっていることも魅力的です。大徳寺境内へは、誰でもはいることができるので、観光客のみならず、地元の方々、それこそ買い物袋を自転車カゴに入れて走る姿や部活帰りの学生の姿も見られます。でも空き缶もゴミもひとつも落ちていません。日々の生活空間に溶け込んでいながらも、そんな清々しい感じが素敵です。

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寺院のひとつ、聚光院を訪れました。この寺院には「閑隠席」という茶室があります。ぼくが会社に勤めていた頃、資料室の奥に埋もれるようにしてあった茶室関連の本を見つけました。大きなビルを設計するのが主な仕事だった会社では、小さな茶室は専門外といったところだったのでしょう、古く、あまり読まれていなさそうだったその本には、印象的な茶室の写真と図録が数多く掲載されていました。

監修・千宗室、写真・田比良敏雄によるその本のいくつかのページをコピーし、資料として大切に持ち、よく眺めていました。そのなかに「閑隠席」の写真が載っていたのですが、それは、ぼくにとって茶室への興味を決定的にするものでした。躙り口周りの外部を撮ったモノクロの写真。木や石といった素朴な材料が陰影のなかでもたらす独特の情感。深く、印象に残りました。

閑隠席は江戸中期につくられた、利休好みの三畳敷の茶室。室内の天井はぐっと低く抑えられ、どうということのない意匠のなかに、揺るぎないプロポーションと構成が感じられ、気圧される思いでした。太目の床柱のある空間の、深い落ち着き。数年前の特別公開の折に訪れたときは、そんな風に感じることがありませんでした。この数年で少しは成長した、ということであれば嬉しいものです。

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