明けましておめでとうございます。本年もブログにお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。
さて、雑誌「コンフォルト」最新号に、「東山の家」のことを取り上げていただきました。新年最初の号の特集は、「日本の美しいもの」。茶室についても特集が組まれ、「東山の家」の茶室を中心に撮影をしていただき、文章を書いていただきました。
この住宅は、1階がすべて茶室のための空間になっていて、四畳半茶室、八畳広間、待合、水屋が備えられています。四畳半の茶室は、京都・裏千家にある茶室「又隠」を念頭に置いて設計したものでした。(「東山の家」については、このブログの同名のカテゴリーもぜひご覧ください。)
「又隠」は千利休の孫・千宗旦がつくった茶室です。時は江戸初期。千利休がまとめあげた、侘びた茶室の思想は、その後、時代の流行に左右されて幾つもの流れに分かれていきました。戦国の世に磨かれていった「侘び茶」の美学は、平穏の時代にはいり、その意味も役割も自ずと変わっていきます。ものごとは、行き過ぎると窮屈になってしまうのはいつの時代も同じ。あまり観念的に本質論を突き詰めるよりも、ほどほどの方がラクだし、適度な演出があった方が楽しいじゃないか。そんな風に当時の気分を考えると、いろいろな雰囲気の茶室ができていったのは当然かと思います。そのなかで、利休の孫である宗旦は、利休の求めた求道的な茶の在りようを、さらに純化しようとしたそうです。その求道的な心は結果として、日々の暮らし方にまでおよび、清貧をつきつめた宗旦は周囲から「乞食そうたん」とまで言われたようです。そんな宗旦がつくった茶室が「又隠」。
淡交社から発刊された、裏千家の写真集があります。建築写真家・二川幸夫氏による写真と、裏千家全域にわたる詳細な図面を、僕は以前からよく眺めていました。いろいろな茶室に関する本も読む中で、僕は千宗旦の、いわば覚悟の仕方のようなものに、とても感じ触れるものがありました。ですから、僕にとって「又隠」は特別な存在でした。そんな時、お施主さんから、はじめてご連絡をいただき、設計依頼のご依頼をいただいたのでした。「又隠」のような茶室をつくりたいと思っている。そんな話をお施主さんからお聞きしたときには、耳を疑うほどの驚きでした。
家をつくるというのは不思議なもので、通り一遍の機能がそなわっていればよいかというと、そうではありません。いわば精神的な、目に見えない何かを取り扱うことができないと、本当に良い家、良い場所はつくることができないというのが僕の考え方です。モノづくりだけに夢中になってはいけない。目に見えないものを、心の目を凝らしてよく見ようとすること。それが大切なのだろうと思います。そうして、「又隠」を手本としながら少しずつ変形がくわえられ、二つとない茶室ができあがりました。それが、きりりと緊張感のある独特の雰囲気になったのは、施工者と職人さんたちの、きわめて神経の行き届いた仕事によるものです。その姿を、この度の取材で撮影していただいたのは、写真家・西川公朗さん。僕と同年代の若い方ですが、今ではほとんど使われることのなくなった4×5(しのご)の大判カメラをガツンと構えて、気持ちを「上げて」いくのだそう。ひょうひょうと話される言葉の奥に、ゴリっとした強いものを感じます。そうしてできあがった写真は、幽玄な趣きのなかに、やわらかさのある雰囲気でした。
よろしければ、ぜひご覧いただけますと幸いです。「コンフォルト」のサイトはこちら。
http://confort.ksknet.co.jp/special/index124.html
また、オノ・デザインのサイトにも、「東山の家」の写真をアップしました。こちらもぜひご覧ください!