今年の春先に、イタリアのフィレンツェを旅しました。旧市街に残るルネサンス期の建物が、いまだに現役で使われていることにびっくりしました。14,5世紀につくられたそれらの建物は、傷んだところは修理され、風化もしていますがそれが独特の味わいになっています。
そしてさらに印象深かったのは、それらの建物は、素朴でありながらとても丁寧につくられているということでした。しっくい塗の壁を守るように、軒や庇が木で整然とつくられ、雨といも、きちんと雨がはけるように大きなものが取り付けられ、床に流れ落ちた水が排水溝に流れやすいように、床の目地も美しくデザインされているのでした。
決して奇をてらうデザインではないのだけれど、ものごとの役割を楽しむかのようなデザインと丁寧な手仕事は、長い時間を重ねて、より深い魅力を生み出しているように思いました。そんな伝統は、街中で今も元気に活躍する小さな工房に引き継がれているようです。革製品の工房が多いと聞きますが、大量生産のものではなく、ひとつひとつ手で作られるものには、とても惹かれます。
僕が営む小さな設計事務所も、規模という意味では、「小さな工房」の仲間入りです(笑)
小さな工房であるなら、手づくりならではの趣を、設計する住宅に宿したいと思います。
設計するというのは、職人のように直接ものをつくることではないけれども、光や、影や、質感を味方につけて趣をもたらす術には、こだわりたいと思っています。
光や影や質感を求めようとすると、どうしてもアルミサッシでは物足りなくなってしまう。極端に言えば、アルミサッシだけたくさんついた派手でカッコいい住宅より、光と影と質感の魅力に溢れた窓辺がたったひとつある住宅の方が、心惹かれてしまうのです。(言い過ぎかな?笑)
そこにイスやソファやベンチを置いて、のんびり過ごせるような、そんな窓辺。フィレンツェの古い建物にも、そんな場所がたくさんあったなあ、と、思い起こしたりするのも僕にとっては楽しい時間です。
写真は仙台に建つ「青葉の家」から。