以前に、修道院の建築ばかりをひたすら観てまわる旅をしたことがありました。一見では同じような形式でありながら、いろいろと見ていくと、それぞれに個性があることがよくわかってきます。
こじんまりとした修道院の中庭や個室はとても居心地がよく、大きな修道院はひとつの街並みのような風情があります。その空間をスケッチを描きながらしっかり体験する時間は、なんとも楽しい時間でした。
写真はフィレンツェ近郊ガルッツォにある修道院。大きな修道院で、地形を活かした独特のエントランス階段があって、なんだか超現実的なゾーンに入っていくような不思議な感覚にとらわれます。
あれ?この感覚!ラ・トゥーレット修道院では?
直感的にそんなことが頭をよぎります。
ラ・トゥーレット修道院。それは近代建築の巨匠ル・コルビュジエが晩年に設計した名作なのですが、この修道院を設計する際に、コルブは南フランスのル・トロネ修道院を大いに参照した、とされています。
もちろん、そうではあるのだけれども、それ以上にこのガルッツォの修道院には、ラ・トゥーレットの痕跡が感じられるのです。特にこの異次元に入っていく感じ。
よく調べてみると、まだ若い頃、コルビュジエは二度三度このガルッツォを訪れていた、とのこと。
もしかして、数十年の時を経て、若い頃の記憶にじんわりとつきあげられるようにして、あの独特な中庭の回廊を設計したのだろうか。
そんなことを勝手に想像できてしまうのも、旅の楽しみです。
そんな勝手な興奮をよそに、回廊の列柱越しに、トスカーナの美しいのんびりした光景が広がります。