「東山の家」が、いよいよ竣工に近づいてきました。この住宅は茶室や水屋を備えており、その仕上げ方も特殊になります。通常の現場ではなかなか会うことのない方々に会うことができ、それもこの現場の楽しみでもありました。
木製の板戸や障子、襖なども、一口に和風といっても関東と関西では、またその寸法体系も異なります。障子の桟も、もうひとつ細く。それが京都の流儀でもあります。そんなようなことから、今回の現場では京都の建具屋さんに来ていただくことになりました。
こんな感じどうですか、と見せていただいた障子の桟は5ミリに満たない細さです。杉材もなるべく綺麗な赤味を選んでいただいたようで、そんな風にしてできあがった障子には、得も言われぬ柔らかさがあります。
建具屋さんと一緒に来ていただいた京都の表具屋さん。普段から茶室や社寺関係の仕事が多いとのこと。この後また寺の仕事にはいる前になんとか予定を組んでいただいて、東京の現場に来ていただきました。
時代は変われど、良き技と道具は変わらぬ、ということでしょうか。仕事の跡が染みついた道具類は、四畳半茶室の淡い光のなかで鈍く光り、独特の存在感を放つ、かのようです。この日は茶室の腰張りを貼っていただきました。腰張りというのは、着物が土壁にこすれるのを防ぐ、帯状の紙のことです。西の内紙、湊紙という2種類の紙を貼り分けるのですが、糊の調合にも工夫が必要で、後で張り替えができるような強さに調整しているそうです。下地の壁の粒子が浮き立つよう、ブラシを叩きつけるようにして張り仕上げていく方法は、見ていて実に独特です。
こうして腰張りと畳、そして襖がはいったとき、「現場」から「室内」に一気に変わったように思いました。
あわせて襖の吊り込みもしていただきました。襖の引き手は、お施主さんのお好みで珍しい意匠のものも取り入れました。京都の表具屋さんをもってしても「なかなかつけることがないから、穴開けとか緊張しますわ。」と笑われながら開梱した襖の、なんという存在感!最後に調整し、一気に吊り込んでいきました。
畳屋さんが一言ポツリ。「大工さんの仕事の精度がいいからうまくおさまったな・・・」。そんなことを聞きながら、そういえば、それぞれの職方の皆さんが、自分の後に続く仕事のことを気にしていたことを思い出しました。大工さんが下地をきちんとつくってくれないと、左官屋さんがいくら腕が良くても、結果として良い仕上がりにはなりません。少しずつのその気持ちと努力が重なって、家の佇まいや雰囲気に関わっていくのだろうと思います。
四畳半の茶室は、裏千家又隠を基本としながらも、窓を大きめにした明るめの席となりました。その分、やわらかい雰囲気にもなったように思います。
大工さんがコブシの木を削って仕事をしていた時の香りが、とても爽やかでした。職人さんの思い出とともに、木の香りのほのかな名残も、和室の魅力のひとつかもしれませんね。