アライバル

2011-09-04 15:16:27 | 

110904

美しい絵が話題になっていた絵本「アライバル」を買いました。この絵本には、言葉がひとつも出てきません。絵だけで物語が進んでいくのです。小さなコマ、大きなコマ、それらが物語の気分の抑揚に合わせるかのように使い分けられ、ぐいぐいと引き込まれていきます。

ある男性が、家族を残して見知らぬ国に行くのだが、そこでは・・・。

鉛筆で精緻に描かれた絵は、写実的でありながらも、そのシーンから伝えたいことが胸の内にスーッとはいってくる、計算しつくされた構図とデフォルメによって描かれています。なにしろ登場する街並みの風景や動物や草花が、この世には存在しないものなのです。主人公に感情移入をしながら、読者はその世界のなかに居合わせているかのような気持ちになります。

絵本というと子供向けのもののように思われがちですが、言葉のないこの物語は、子供から大人まで、それぞれの年齢に応じた解釈をできるものだと思いました。言葉がないぶん、「説明」という野暮なものがない。映像ではないから、幻想と現実を違和感なく感じとることができる。書評では、サイレント映画のようだ・・・と書かれていることも多いようですが、圧倒的に違うのは、物語を読み進むスピードすら、読み手に任されているということ。なにしろ、一枚一枚が珠玉の美しいイラストです。美しい線の一本一本に酔いしれながら、じっくりと時間をかけて読みすすむのも素適ではありませんか。

製作に三年もの月日がかかったとのこと。それはそうだろうなあ、と素直に思えてしまうほど、切ないくらいに印象的な絵です。そして作者のショーン・タン自身も、この物語のテーマとなっている「移民」としての背景をもっているそうです。単に想像だけで楽しくつくることでは得られない、重厚さと奥行きが、この絵本には詰まっているように感じました。

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