普段、事務所ではFMラジオを聴くこともあり、最近の曲なども頭のどこかでフレーズが残っていることもありますが、あまり本腰をいれて「開拓」することもないまま過ごしてきました。そんななかにあって、ずっと好きで聴き続けているミュージシャンがいます。名前はリッキー・リー・ジョーンズ。アメリカを拠点に活動する女性シンガーソングライターで、70年代末にデビュー曲「恋するチャック」などがヒットし一世風靡をしたそうです。
僕がリッキーを知ったのはちょうど10年前。CDショップの試聴コーナーで、さして取り立てることもなく置かれていたアルバムを聴いて心を奪われたのでした。さっそく1枚聴いてみようと思い、初めて選んだのは、そこから更に7年前 1989年に発表された「フライング・カウボーイズ」というアルバムでした。理由は単純、ジャケットの絵が気に入ったから。
可愛くもあり、物憂げでもある歌い廻し、難解な歌詞など、その独特な魅力は一言では言い表せません。オリジナルの曲以上に、スタンダードナンバーのカバー曲も多く、どれもが独特なものに生まれ変わります。まるで、美しい曲を時代を越えて歌い継いでいくかのよう。そういえば、近世以前の美術も、多くは定型的な宗教モチーフをくりかえし描くことに大きな意義がありました。まったく新しいことを生み出すことが芸術の目的ではなくて、自分以前の遥か昔から受け継がれてきた題材を、大切に受け継いでいく。
昨年末に来日公演がありました。間近で見た彼女の顔には皺が大きく刻まれ、その独特のオーラにのみこまれました。時を重ねていく、時を受け継いでいく、時を越えていく・・・。どのような言葉がふさわしいのかはわかりませんが、結局おなじことを指すのでしょう。自分が設計する建築あるいはデザインも、そのように懐の深いものでありたいと、リッキーを聴きながら、よく思います。
音楽は目に見えるものではありません。ですから写真に撮れるわけではありませんが、10年前に購入したCDジャケットは、10年分のくたびれかたをして、僕の傍らに置いてあります。昔のLPレコードほどではないでしょうが、CDにもそういった個人的な追憶がついてまわります。最近ではi-PODも愛用していますが、「音」と共に歩んできた時間も、大切にしたいところですね。
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