一軒の家ができあがるまでに数多くのプロセスがありますが、そのなかでもとりわけ好きなことのひとつが、スケッチパースを描くこと。
つくろうとする空間の概略の設計図をもとに、コンピューターで3次元の簡易的な線画を描き起こし、あとは、エンピツやペンで手描き。
フルCGでリアルに空間イメージを描くのも当たり前になった時代に、我ながらなんとアナログなことか、と思うのですが、手描きで紙に向き合っている時間が僕にとって大事なのだから仕方がない。
まあ、たいして上手いわけではないのですが(笑)
描きながら、いろいろな想いが頭のなかを去来します。
施主の言った何気ない一言。
最近気に入っている音楽。
昔に旅行で訪れた遠い街の記憶。
幼少期の思い出。
祖父の家でみた鈍く光る古いドアノブの手触り。
そしてまた施主の表情。
集中して描いているようでありながら、ふわりふわりといろいろなイメージが浮かんでは消えていきます。
ヴァルター・ベンヤミンの随想のように、脈略のないようなものがすぅっと合わさってきておぼろげながら図像を結び、あ、これでいいんだ、と思えるようになるまで描いては消し、消しては描いて、徐々に1枚のイメージ画ができあがっていきます。
そんな時間が好きなのです。
家の設計は、つくづく正解の無い世界。
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