今年はこれといって行っていないのですが、3月のこの時期にはこれまで、よく京都に旅行に出かけていました。まだ肌寒くピリッと寒いのが、社寺を訪ねるのにもほどよく緊張感があり、観光客も少なめで、おまけにその分、宿泊費なども安く済むのですからありがたい季節です。
これまでの京都の旅を思い返す中で、脳裏にじわじわとよみがえってくるのは修学院離宮を訪れた時のことでした。もともと京都市の北の方で生まれ育ったこともあり、比叡山麓にある修学院離宮のある環境は、なんとなく肌身にしっくりとくるように思うのです。
修学院離宮は、もともとは江戸時代に皇室の別邸として造営されたものでした。派手さは一切なく、簡素で慎ましやかな美意識に貫かれています。
そのなかでも、私がいちばん好きな眺めがこの写真です。寿月観という建物の正式なエントランスです。控えめでありながらも格調があります。斜面地に面して建っていて、ぐるりと回り込むと伸びやかな外観を見せてくれます。
素朴な雰囲気で、まだ花咲く前の木々のなかで凛と建っています。
濡れ縁は束立てが少なく浮いているような軽やかさが感じられます。
障子の腰板は3本の化粧桟がうたれ、檜皮葺の屋根と頂部の棟瓦の不思議な調和を見せてくれます。
竹製の軒樋も、大振りでどこか愛嬌があります。
本質主義に一辺倒でつくるのではなく、適度な遊び心をもちながらつくってあるところに、素朴と洗練の不思議な調和があるように思います。
こういうのを、雅というのでしょうか。