現代若者気質, 加賀乙彦, 講談社現代新書 343, 1974年
・元精神科医の作家として著名な著者の『まったく、いまの若いものときたら!』的文章。あちこちの雑誌に書いた小文の寄せ集め。ゆえに一冊の本としてのまとまりに欠ける。『若者論』というよりも、主に戦前生まれの世代と、戦後世代の比較。30年前における世代の区切りは"戦争"だったのですね。今で言う世代の区切りとなると、"高度経済成長期"となるのでしょうか。それとも"20世紀 vs 21世紀"?
・「そしてある日、はっと気がついたことには、私は学生を理解できないと知っただけ彼らを理解しえたのではないかと思ったのである。」p.15
・「なにも知らぬ人間ほどわかったふりをすることを、じつは私は、十数年間精神医として患者たちに接してきた経験で知っていたはずではないか。」p.16
・「そこで精神医の仕事というのは、常識に反して世の中の人々に気違いとみなされた人々がどこまで正常であるかを見極める仕事となる。(中略)狂人を診断するとは、一人の人間をどこまで理解でき、どこから先が理解できぬかを見極めることである。」p.16
・「他人に姿を見せるということから私たちはのがれられない。ということは、私たちひとりひとりはこの世で他人との関係においてしか生きられないということだ。」p.18
・「ちょうど、反響のよい風呂場で唱うとだれもが自分を美声だと思いこむように、十代の少年はだれもが自分を詩人と思いこみ、二十代の青年は誰もが自分を小説家と思いこむ、そんなことは昔も今もまったく同じである。」p.29
・「以前熱心にやっていたゴルフを私がやめた理由もそこにある。私が遊んでいるそばで、黙って私のクラブを運ぶキャディの存在がやりきれなかったのである。」p.43
・「自分の陥った過誤や自分が生存する条件というものは、だれの責任でもない面、それ自体でどうしようもない運命的な構造、もっといえば絶対的な自然の枠組のなかにあるという意識が私にはあった。」p.46
・「他人に全責任があると看做すことは、つまりは自己を独立した人格として認めず、他人に甘えきっていることを意味する。それは、自分の力ではなに一つ生きていないのに、親を責めているだだっ子の論理なのだ。」p.47
・「これはある老練な記者に教わったことだが、インタビューの秘訣はつねにメモをとるふりをすることだという。」p.53
・「笑いというのはだれかの説にあったように優越感の表明かも知れないが、この囚人たちの笑い方を見ていると、もっと単純に異質間の表明だという気もする。自分たちの身におこりえない事柄は笑いを誘い、我が身につまされることは、たとえどんなに滑稽でも笑う気になれないらしい。」p.90
・「行司には木村と式守の二家があり、木村は軍配を上から握り、式守は下からであるとか、力士が動いているときはノコッタ、静止しているときはハッケヨイと声をかけるなど、」p.119
・「自分の集団以外の他人には極端に残酷になりうる――これが日本人のおちいっているエゴイズムの本態である。」p.157
・「個人のないエゴイズムの国とは奇妙な国だが、これは事実だから仕方がない。そしてこの集団のエゴイズムを突き崩すてだては、逆説的だが個人のエゴイズムを育てるより仕方がないというのが私の意見である。」p.159
・「学生たちは筆一本でたった文学者としてランボオとヴェルレーヌをあげ、私が外国の人は議論の標準にならぬと反駁すると、日本の流行作家の名を何人かあげたのである。私が名前をきいただけでヘドが出そうな人たちである。」p.170 作家同士でこういう意識があるとは。意外でした。
・「いったいに肉感的なこと感覚的なことほど伝えにくい。」p.187
・「あの戦争が一握りの軍人や政治家によって計画され、国民はだまされ、いやいやながら戦争にかりだされたのだというのは戦後がつくり出した大きな嘘だと私は思う。」p.189
・「大丈夫なのだ。日本の若者たちは、若々しく、かしましく、大人たちを驚かしながらなお、力強く、ひそやかに、堅実に自分たちの未来を築きつつある。」p.197
~~~~~~~
?しゅうしょう【周章】 あわてふためくこと。うろたえ騒ぐこと。
?マキシ(英maxi) 洋装で、くるぶしが隠れるほどの長い丈。「マキシスカート(コート)」
?まんかんしょく【満艦飾】 1 海軍の儀礼の一つ。国家の大典や祝日、観艦式などに、港に碇泊中の艦艇が艦首から艦尾までの各檣に信号旗を連揚し、各檣頂に軍艦旗を掲揚するもの。 2 転じて、洗濯物などを軒端いっぱいに干しならべるさまのたとえ。 3 婦人が、極度に着飾っていることのたとえ。「満艦飾でお出まし」
?秋波を送る 女性が、相手の関心を引こうとして、こびを含んだ目つきで見る。
?おかいこ‐ぐるみ【御蚕纏】 絹物の衣服ばかりを身にまとっていること。何不自由なく育てること、または、ぜいたくな生活をいう。おこさまぐるみ。
?きょそ【挙措】 (「挙」は上にあげる、「措」は下に置くの意)あげることと置くこと。転じて、たちいふるまい。起居動作。挙止。挙動。
?しかい【斯界】 この社会。その道その道の専門の社会。この道。この方面。「斯界の権威」
?きごう【揮毫】 (「揮」はふるう、「毫」は筆の毛の意)文字や絵をかくこと。染筆。揮筆。「揮毫を頼む」
?かいかつ【開豁】 Ⅰ 1 ながめの広く開けているさま。ひろびろしたさま。 2 心がひろいさま。こせこせしないさま。 Ⅱ 開き、ひろくすること。
《チェック本》 中勘助『銀の匙』
・元精神科医の作家として著名な著者の『まったく、いまの若いものときたら!』的文章。あちこちの雑誌に書いた小文の寄せ集め。ゆえに一冊の本としてのまとまりに欠ける。『若者論』というよりも、主に戦前生まれの世代と、戦後世代の比較。30年前における世代の区切りは"戦争"だったのですね。今で言う世代の区切りとなると、"高度経済成長期"となるのでしょうか。それとも"20世紀 vs 21世紀"?
・「そしてある日、はっと気がついたことには、私は学生を理解できないと知っただけ彼らを理解しえたのではないかと思ったのである。」p.15
・「なにも知らぬ人間ほどわかったふりをすることを、じつは私は、十数年間精神医として患者たちに接してきた経験で知っていたはずではないか。」p.16
・「そこで精神医の仕事というのは、常識に反して世の中の人々に気違いとみなされた人々がどこまで正常であるかを見極める仕事となる。(中略)狂人を診断するとは、一人の人間をどこまで理解でき、どこから先が理解できぬかを見極めることである。」p.16
・「他人に姿を見せるということから私たちはのがれられない。ということは、私たちひとりひとりはこの世で他人との関係においてしか生きられないということだ。」p.18
・「ちょうど、反響のよい風呂場で唱うとだれもが自分を美声だと思いこむように、十代の少年はだれもが自分を詩人と思いこみ、二十代の青年は誰もが自分を小説家と思いこむ、そんなことは昔も今もまったく同じである。」p.29
・「以前熱心にやっていたゴルフを私がやめた理由もそこにある。私が遊んでいるそばで、黙って私のクラブを運ぶキャディの存在がやりきれなかったのである。」p.43
・「自分の陥った過誤や自分が生存する条件というものは、だれの責任でもない面、それ自体でどうしようもない運命的な構造、もっといえば絶対的な自然の枠組のなかにあるという意識が私にはあった。」p.46
・「他人に全責任があると看做すことは、つまりは自己を独立した人格として認めず、他人に甘えきっていることを意味する。それは、自分の力ではなに一つ生きていないのに、親を責めているだだっ子の論理なのだ。」p.47
・「これはある老練な記者に教わったことだが、インタビューの秘訣はつねにメモをとるふりをすることだという。」p.53
・「笑いというのはだれかの説にあったように優越感の表明かも知れないが、この囚人たちの笑い方を見ていると、もっと単純に異質間の表明だという気もする。自分たちの身におこりえない事柄は笑いを誘い、我が身につまされることは、たとえどんなに滑稽でも笑う気になれないらしい。」p.90
・「行司には木村と式守の二家があり、木村は軍配を上から握り、式守は下からであるとか、力士が動いているときはノコッタ、静止しているときはハッケヨイと声をかけるなど、」p.119
・「自分の集団以外の他人には極端に残酷になりうる――これが日本人のおちいっているエゴイズムの本態である。」p.157
・「個人のないエゴイズムの国とは奇妙な国だが、これは事実だから仕方がない。そしてこの集団のエゴイズムを突き崩すてだては、逆説的だが個人のエゴイズムを育てるより仕方がないというのが私の意見である。」p.159
・「学生たちは筆一本でたった文学者としてランボオとヴェルレーヌをあげ、私が外国の人は議論の標準にならぬと反駁すると、日本の流行作家の名を何人かあげたのである。私が名前をきいただけでヘドが出そうな人たちである。」p.170 作家同士でこういう意識があるとは。意外でした。
・「いったいに肉感的なこと感覚的なことほど伝えにくい。」p.187
・「あの戦争が一握りの軍人や政治家によって計画され、国民はだまされ、いやいやながら戦争にかりだされたのだというのは戦後がつくり出した大きな嘘だと私は思う。」p.189
・「大丈夫なのだ。日本の若者たちは、若々しく、かしましく、大人たちを驚かしながらなお、力強く、ひそやかに、堅実に自分たちの未来を築きつつある。」p.197
~~~~~~~
?しゅうしょう【周章】 あわてふためくこと。うろたえ騒ぐこと。
?マキシ(英maxi) 洋装で、くるぶしが隠れるほどの長い丈。「マキシスカート(コート)」
?まんかんしょく【満艦飾】 1 海軍の儀礼の一つ。国家の大典や祝日、観艦式などに、港に碇泊中の艦艇が艦首から艦尾までの各檣に信号旗を連揚し、各檣頂に軍艦旗を掲揚するもの。 2 転じて、洗濯物などを軒端いっぱいに干しならべるさまのたとえ。 3 婦人が、極度に着飾っていることのたとえ。「満艦飾でお出まし」
?秋波を送る 女性が、相手の関心を引こうとして、こびを含んだ目つきで見る。
?おかいこ‐ぐるみ【御蚕纏】 絹物の衣服ばかりを身にまとっていること。何不自由なく育てること、または、ぜいたくな生活をいう。おこさまぐるみ。
?きょそ【挙措】 (「挙」は上にあげる、「措」は下に置くの意)あげることと置くこと。転じて、たちいふるまい。起居動作。挙止。挙動。
?しかい【斯界】 この社会。その道その道の専門の社会。この道。この方面。「斯界の権威」
?きごう【揮毫】 (「揮」はふるう、「毫」は筆の毛の意)文字や絵をかくこと。染筆。揮筆。「揮毫を頼む」
?かいかつ【開豁】 Ⅰ 1 ながめの広く開けているさま。ひろびろしたさま。 2 心がひろいさま。こせこせしないさま。 Ⅱ 開き、ひろくすること。
《チェック本》 中勘助『銀の匙』