呼吸法の極意 ゆっくり吐くこと, 成瀬雅春, BABジャパン, 2005年
・ヨーガ行者である著者による、ヨーガに基づいた呼吸法の入門書。巻末に女優・高木沙耶との特別対談が付属。
・健康法としての呼吸法に興味を持ち購入。内容を要約すると最後の書き抜きの「
まずは、自分の呼吸に意識を向ける。それができたら吐くのをゆっくりにする。」、この一文に尽きます。そしてなんと、「神の領域に迫る」呼吸法に至るまで懇切丁寧に書かれていますが、その文章だけを頼りにその呼吸法を体得できる人間は皆無であると言っていいでしょう。その記述の端々からは少々『トンデモ』的香りも漂います。今回は直接中身を見ずに、書評のみを頼りに買ってみたところ、期待とは異なる本をつかんでしまい、失敗。内容を初級編に絞って訓練の段階を細分化し、図解を増やして実用度を高めればかなりマシになるのではと思うのですが。
・表紙の岩の上で瞑想する仙人のような人物は一体何者なのだろう、と思ったら、それが著者でした。
・「
本書で私が示す呼吸法は、そういったイメージ法ではなく、呼吸の確かなテクニックを身に付けるためのものである。そのために「吐く前の喉の状態」「舌の位置」「呼吸の強さ」「呼吸の長さ」「呼吸の音質」「腹部の使い方」「胸部の使い方」「呼吸の回数」などを細かく指定して、決められたテクニックの呼吸になあるように練習するのである。そうやって身に付けることで、正しい「呼吸法」を自分のものにできる。」p.1
・「
このようにヨーガ修行も本格的になると、命懸けで取り組まなければならなくなる。私の「空中浮掲(ママ)」や「心臓の鼓動を止める呼吸法」なども命懸けの修行法である。私は独学で心臓の鼓動を止めることができるようになったが、劇薬の致命的な影響を中和する力といい、空中浮揚といい、ヨーガの呼吸法で得られる能力には計り知れないものがある。」p.3
・「
それほどアヒンサーというのは深い内容の修行だから大変なのである。アヒンサー(非暴力)を実践したことで有名なマハトマ・ガンジーも、テロリストに殺されてしまったのだから、厳しい見方をすればアヒンサーには成功しなかったことになる。もしアヒンサーに成功していれば、テロリストの意識から、マハトマ・ガンジーを殺そうという気持ちが消えてしまい、暗殺行為は起こせなかっただろう。 ヨーガに熟達した行者は、森の中でもライオンや毒蛇に襲われることがない、というのもこのアヒンサーのためなのである。」p.22
・「
一頭のシカが犠牲になったことで九九頭のシカが助かっているし、犠牲になったシカは群れの中では体力も弱く、ライオンの襲撃から逃れるだけの力がなかった。このように力の弱いものが犠牲になることで、シカの種族としての全体の能力を向上させることにもなるのである。」p.47 類似の議論は「獲得形質の遺伝」のよくある勘違いとして有名のような。
・「
私は基本的にお腹が空いて食べたくなったときに食べるので、食事時間はでたらめだし、体の奥の方で拒否しているものは、どんなにもったいなくても食べない。そのために、一緒に食事をしたのに、私だけ食あたりしないで済んだというようなことはある。 しかし、健康のために食べるわけではないので、栄養のバランスなどはほとんど考えない。自分の好みに合ったものを、食べたいときに食べているのだから、感心してもらうほどのことはない。だから私の食事は一般的に通用している「自然食」とはいえない。(中略)
牛は一種類の草を食べ続けて生きていけるし、その他のいろいろな動物も、一種類の食べものだけで生きているケースが多い。当然人間も一種類だけを食べて生き続けられる可能性はある。」p.51 一見突飛なことを言っているようにも感じるが、
エスキモーがほとんど生肉しか食べていなかったことを考えると、納得出来る。
・「
インドのギリバラという女性の行者は、五十年以上も飲まず食わずで元気に活動していたそうである。ギリバラは「或る種のマントラの使用と、普通の人にはできないような難しい呼吸の実修から成っております。薬や魔術は全然用いません」といっている」p.54
・「
この「思考を停止させるテクニック」も、ヨーガ経典の記述を超える呼吸法の極意といえるものである。」p.62
・「
完全呼吸法のような呼吸法のテクニックを練習する以前に、呼吸法を身に付けるための根本的な原則がある。それは「呼吸に意識を向ける」ということと、「ゆっくりと息を吐く」という二つである。 呼吸は生まれて以来休むことなく続けられているので、ふだんは意識していない。その自分の呼吸に意識を向けることが第一の原則である。意識を向けた瞬間から、呼吸はゆっくりし出す。一日のうち、呼吸に意識を向けることが多くなるほど、ゆっくりした呼吸をしている時間が多くなる。それがすでに呼吸法の重要な基本を身に付けたことになる。 そして第二の原則の「ゆっくりと息を吐く」ということを心がければ、ヨーガ呼吸法の「深い呼吸をする」という重要な基礎訓練をしていることになる。一般的な深呼吸では息を吸ってから吐いているが、それでは本当に深い呼吸にはならない。」p.83
・「
吸う12秒、止める48秒、吐く24秒を、当面の目標にして練習すればよい。」p.89
・「
ヨーガの完全呼吸法を知り、それを実際に練習し出してから、私には疑問が生じた。それは、果たしてこれが完全呼吸法と呼べるものなのだろうか、という疑問である。つまり、どんなに上達しても一回毎に違いがあり、それを毎回全く同じ状態にすることなど不可能なことだというのを知って「完全呼吸法」という名称に疑問をもったのだった。 「完全な呼吸なんて神様でもなければできるわけがない」というのが、私の素直な意見だった。(中略)
そこで私は逆に「完全呼吸法」の重要さに気づいた。完全な呼吸はおそらく「神」でなければできないだろうが、完全な呼吸に限りなく近づくことはできる。とすれば「完全呼吸法」に熟達すればするほど、限りなく「神」に近い存在になれることになる。」p.99
・「
病気にはいろいろな種類があるが、その多くは血液の汚れが原因である。血液の循環がよくなり、血液の質がよくなれば、大半の病気は治ってしまう可能性がある。」p.106
・「
《行法》
①半内的完全呼吸法でゆっくり息を吸い込んでから、自然に一~二秒ほど止める。
②ゆっくりと鼻から息を吐いていくが、そのとき鼻腔の奥に息を当て、独特の摩擦音を出しながら吐くようにする。
③①~②を繰り返す。」p.112 呼吸法の伝授は延々とこの調子で続く。
・「
この説明だけでもマスターするのは大変だろう。そこで、できれば一人で練習するのではなく、二人以上でお互いにチェックし合いながら練習することをお勧めする。」p.130
・「
呼吸法も繊細さが増してくるにつれて、チャクラの存在がクローズアップされてくる。そもそもチャクラとは何なのかというと、人体内の霊的エネルギーセンターだと解釈すれば、ほぼ間違いがない。ただしチャクラは肉体内に存在するのではなく、アストラル体(霊体)の領域に存在するのである。」p.132
・「
私のところにはいろいろな手紙が来るが、中でも超能力や霊能力に関するものが結構ある。「突然チャクラが開いてしまったのですが、どうしたらよいのでしょうか」「私は悟りを開きました」「解脱してしまったのですが、これからどうしたらよいかアドバイスしてください」など、ただ手紙を見ている分には笑い転げてしまうようなものがかなりある。」p.151
・「
「悟りを開いた」とか「解脱した」というのも、本人がいっているとしたら、観察能力がないだけのことである。悟ったとか解脱したという主張をする部分のエゴが消え去ってからでないと、本当の悟りは得られない。本当に悟りを得たら、自分から悟ったなどとはいわなくなるくらいのことは、細かな観察能力があればわかることである。」p.164
・「
伝統的なヨーガ呼吸法に隠された「神の領域に迫る」テクニックを可能な限り活字にしてみる、という大胆な試みに正面から取り組んでみた。」p.200
・「
これは余談だが、楽器演奏のテクニックに「吐きながら吸う」というのがある。私が専門にしていたサキソフォンやトランペットの演奏者の中に、時々このテクニックを使う人がいる。ロングトーンといって一つの音を長く出し続けるのだが、常識では考えられないぐらい長く出せるのだ。」p.204 おそらく筆者は "循環呼吸" のことを言いたいのではないかと。。。
・「
たとえば自分の家の前で倒れてしまったサンニャーシンがいたら、むろん医者に見せることもするが、余命いくばくもないとなったら、庭先にベッドを用意して毎日の食事の世話をしながら、死ぬまで面倒を見るという習慣がある。だからどこで行き倒れになっても心配がないのである。」p.210
・「
ヨーガの聖者は輪廻の最終段階の人生で、自分の役割をすべて終えると、自らの意思によって死ぬことが(自殺ではなく)できるとされている。」p.232
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私の空中浮揚写真を見て、「このときの意識状態はどんなですか」とか、「呼吸はしているのですか」などという質問を受けることがある。たしかに「地上1メートルを超える空中浮揚」の写真を見れば、いろいろな疑問が沸き起こるのだろうと思う。」p.245
・「
最近は「解脱」という言葉が流行のように使われるようになった。新興宗教の教祖で「私は解脱した」という人もいるようだ。解脱した人には何の執着もないので、自分から「解脱した」ということはありえない。 しかしヨーガの話の中にはジーヴァンムクタ(生前解脱)という、生きていて解脱した人の例が出てくる。その話があるので「私は解脱した」というのだろうが、これは勘違いなのである。 ジーヴァンムクタというのは、本人がいうことではなくて、周囲の人たちが「あの人は解脱している」と感じるものなのである。」p.247
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呼吸は生まれてから、ずっとしているのが当然なことだから、普段は意識されていないんですよね。 けれども、意識を向ける。すると、呼吸がゆっくりし始める。それから、ゆっくりと息を吐くようにする。肺にある汚れた空気を吐き出してから、新鮮な空気を吸うんです。息を吸ってから吐くというのが深呼吸と言われていますが。」p.266
・「
結局、ヨーガでもフリーダイビングでも自分自身を見つめることだと思います。すると、自分の中から一番よい方法というのがおのずと見つかるんですよね。 自分の中から出てくる答えに間違いはないんです。」p.270
・「
けれども、自分が空腹を感じて、本当に食べたいと思うのは、一日三回ではないと思います。もともと人間は二食なのです。三食というのは近代になってから。本当にお腹が空いてから食べようとしたら、朝食を取って、十二時に食べるなんてことはない。本当はまだお腹は空いていないはず。」p.274 犬は一日何食か? 猫は一日何食か? などと考え出すと「もともと何食?」という議論はあまり意味が無いような。
・「
まずは、自分の呼吸に意識を向ける。それができたら吐くのをゆっくりにする。面白いと思ってきたら、呼吸法をすればいいと思います。 最初は呼吸に意識を向けること次は吐くことに意識を向けること。それに気づいた人は、宝物を手に入れたようなものですね。」p.278