睡眠時無呼吸症候群(SAS)の増悪因子としては,男性,高齢,肥満,口腔の形態などが知られている.とくに体重は重要で,10%の増加で,SASの重症度を示す無呼吸・低呼吸指数(AHI)は32%も増加し,中等症以上のSASに6倍の頻度で増加する.SASに対する治療としてCPAP(Continuous Positive Airway Pressure)が行われ,とくに重要な治療となっている.CPAP治療後の体重変化は以前から注目されていたが,当初,少数例の検討で体重は減少するという報告が散見されたものの,近年はそれを否定する研究が報告されていた.Thorax誌に,CPAP後の体重変化についての初めてのメタ解析の結果が報告されたので紹介したい.
メタ解析の対象となった論文は,最低4週間以上,治療介入が行われた無作為対照試験で,評価項目はBMI(体格指数)と体重とした.結果として,25試験,3181名の肥満者が対象となった.
さて結果であるが,なんとCPAPはBMIを有意に増加させ,体重も増加させてしまった.詳しく結果をみると(図1のフォレストプロット),効果量(effect size)を示すHedgesのgとその信頼区間,さらに異質性(メタ解析の結果のばらつき)を示すI(2)統計量を順に示すと,BMIについてはHedgesのg=0.14, 95% CI 0.07-0.21, I(2)=16.2%,体重についてはHedgesのg=0.17, 95% CI 0.10-0.24, I(2)=0%.つまり,効果量はさほど大きくはないが,異質性は低く,データの信頼性は高いという解釈になる.公表バイアス(publication bias:研究を公表するときにpositiveな結果が,negativeな結果より公表されやすい)をファンネルプロット(図2)で評価すると,効果量の対称性が確認され,公表バイアスは乏しいことが確認される.
さらにメタ回帰分析を行ったところ,年齢,性,治療前BMI・体重,SASの重症度,CPAPのコンプライアンス,検討期間,研究デザイン,食事療法や運動の推奨は,CPAP後の体重増加に対する予測因子とはならなかった.CPAP後のBMI増加に対しては唯一,治療前の体重が予測因子となった.
ではなぜ体重が増えるのだろうか?複数の原因が指摘されているが,もっとも重要なのはCPAPが睡眠サイクルとエネルギー代謝に与える影響である.つまり徐波睡眠時(ステージN3;深睡眠)ではエネルギーは同化されるが,CPAP治療前は徐波睡眠が少なく,異化に傾いて生体物質を分解する方向にあったものが,CPAP治療後は徐波睡眠が増加し,同化に傾いて生体物質を貯蔵する方向に進むというものだ.ほかにマウスではSASによる間欠的低酸素は,lipolysis(脂肪分解)を招くことが知られていて,CPAPは脂肪分解を抑制することで体重増加をもたらした可能性がある.
いずれにしても,医師も患者さんもSASに対するCPAP療法を開始した場合,それだけで安心してはダメで,肥満を認める場合は体重を減らすための治療を平行して行う必要があることを認識する必要がある.
Drager LF, et al. Effects of CPAP on body weight in patients with obstructive sleep apnoea: a meta-analysis of randomised trials. Thorax. 2015 Mar;70(3):258-64.
メタ解析の対象となった論文は,最低4週間以上,治療介入が行われた無作為対照試験で,評価項目はBMI(体格指数)と体重とした.結果として,25試験,3181名の肥満者が対象となった.
さて結果であるが,なんとCPAPはBMIを有意に増加させ,体重も増加させてしまった.詳しく結果をみると(図1のフォレストプロット),効果量(effect size)を示すHedgesのgとその信頼区間,さらに異質性(メタ解析の結果のばらつき)を示すI(2)統計量を順に示すと,BMIについてはHedgesのg=0.14, 95% CI 0.07-0.21, I(2)=16.2%,体重についてはHedgesのg=0.17, 95% CI 0.10-0.24, I(2)=0%.つまり,効果量はさほど大きくはないが,異質性は低く,データの信頼性は高いという解釈になる.公表バイアス(publication bias:研究を公表するときにpositiveな結果が,negativeな結果より公表されやすい)をファンネルプロット(図2)で評価すると,効果量の対称性が確認され,公表バイアスは乏しいことが確認される.
さらにメタ回帰分析を行ったところ,年齢,性,治療前BMI・体重,SASの重症度,CPAPのコンプライアンス,検討期間,研究デザイン,食事療法や運動の推奨は,CPAP後の体重増加に対する予測因子とはならなかった.CPAP後のBMI増加に対しては唯一,治療前の体重が予測因子となった.
ではなぜ体重が増えるのだろうか?複数の原因が指摘されているが,もっとも重要なのはCPAPが睡眠サイクルとエネルギー代謝に与える影響である.つまり徐波睡眠時(ステージN3;深睡眠)ではエネルギーは同化されるが,CPAP治療前は徐波睡眠が少なく,異化に傾いて生体物質を分解する方向にあったものが,CPAP治療後は徐波睡眠が増加し,同化に傾いて生体物質を貯蔵する方向に進むというものだ.ほかにマウスではSASによる間欠的低酸素は,lipolysis(脂肪分解)を招くことが知られていて,CPAPは脂肪分解を抑制することで体重増加をもたらした可能性がある.
いずれにしても,医師も患者さんもSASに対するCPAP療法を開始した場合,それだけで安心してはダメで,肥満を認める場合は体重を減らすための治療を平行して行う必要があることを認識する必要がある.
Drager LF, et al. Effects of CPAP on body weight in patients with obstructive sleep apnoea: a meta-analysis of randomised trials. Thorax. 2015 Mar;70(3):258-64.