Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(1月8日)

2022年01月08日 | 医学と医療
今回のキーワードは,診断後12週間以上の疲労と認知機能障害はそれぞれ32%,22%(メタ解析),感染後5カ月と10カ月に,急激にbrain fogと認知機能低下をきたした2症例の報告,COVID-19回復患者の1年後に認める持続的な大脳白質変化,COVID-19関連ミオクローヌスの多様性,パンデミックはヤコプ病患者数・生存率に影響しないが,診断やケアに影響を及ぼした,です.

オミクロン株による重症化リスクは低いようですが,WHOは世界中で死者が出ていることから,その症状を軽いと説明するべきではないと警告しています.とくに重症化した患者の90%がワクチン未接種者であったことから,ワクチン接種の重要性を指摘しています.また感染力がデルタ株の3倍であり,多数の人に感染が生じているため,医療システムが深刻な圧力に晒されていると述べています.医療を含めたエッセンシャルワークがうまく回らなく危険性が高いことが第6波の特徴のひとつで,これまでの5波とは異なる社会的な対策が求められます.

一方,今回,複数の論文にて紹介するように,long COVIDの研究データが徐々に蓄積はじめ,一部の患者では,長期的に脳の構造や機能にダメージが生じていることが示されました.とくに以前から危惧されていましたが,COVID-19感染が遅発性に認知症発症の引き金になったとする症例報告のインパクトは大きく,さらなる検証が進むものと思います.

◆診断後12週間以上の疲労と認知機能障害はそれぞれ32%,22%(メタ解析).
Long COVID,ここでは診断から12週間以上経過した慢性期での疲労と認知障害について検討したメタ解析が報告された.疲労,認知機能障害,炎症パラメータ,機能的転帰について検討した論文を選択した.疲労は68論文,認知機能障害は43論文が対象となった.この結果,診断後12週間以上疲労を認める人の割合は32%(対象2万5268人),認知機能障害は22%(対象1万3232人)であった.これらは入院患者,非入院患者とも同等の頻度であった.疲労・認知機能障害は,嗅覚障害のように経時的に改善する症候と異なり,一部の患者では持続し,かつ増悪していた.小児は成人と比較してそれらの頻度は低かった.さらにナラティブ統合(バイアスのリスクを考慮せず統合すること)の結果,一部のLong COVID患者で炎症促進マーカー(サイトカイン,CRP,D-dimer,プロカルシトニン)の上昇を認め,少なからぬ機能障害(EQ-5DやmRSで評価)を呈していた.
Brain Behav Immun. 2021 Dec 29:S0889-1591(21)00651-6.

◆感染後5カ月と10カ月に,急激にbrain fogと認知機能低下をきたした2症例の報告.
米国からCOVID-19感染後5カ月と10カ月に,brain fogに引き続き,認知機能が急激に低下した2症例が報告された.両者とも頭部MRIでは異常を認めなかったが,FDG-PETで前頭葉・側頭葉の顕著なブドウ糖代謝低下を認めた(図1は症例1のもので,左側頭葉に目立つ代謝低下を認める).いずれも遂行機能とワーキングメモリーの障害があり,FDG-PET 所見に合致していた.COVID-19感染後にきわめて急速に進行したことから,感染が引き金となって認知機能障害が進行した可能性が示唆された.過去にPETによる評価を受けていないため断定はできないが,COVID-19が元から存在するなんらかの病態を顕在化させ,認知症を引き起こした可能性もある.
Alzheimer Dis Assoc Disord. Dec 30, 2021.(doi.org/10.1097/WAD.0000000000000485)



◆COVID-19回復患者の1年後に認める持続的な大脳白質変化.
中国から,臨床的に回復し症状を認めないCOVID-19患者の1年後の大脳白質と認知機能を評価した研究が報告された.対象は回復したCOVID-19患者22人と健常者21人を比較した.回復者は健常群と比較して,認知機能の有意な低下を認めなかった.大脳白質の変化を確認するために,拡散テンソル画像等を実施し,認知機能の評価にはウェクスラー知能尺度の下位尺度を用いた.結果として,回復者群では,放線冠,脳梁,上縦束の神経軸索密度が健常群より低かった(図2).ICUに入室していた患者は,そうでない患者に比べて,脳梁体部の異方性比率(fractional anisotropy)が低かった.また大脳白質は,入院期間が短いほど異常が少ない傾向にあったことから,入院期間は1年後の白質の変化を予測しうる因子となるものと考えあれた.→ 回復1年後に認める大脳白質の変化が,今後の認知機能にどのような影響を及ぼすか追跡が必要である.
Brain. Dec 16, 2021.(doi.org/10.1093/brain/awab435)



◆COVID-19関連ミオクローヌスの多様性.
スペインの単一施設から,COVID-19感染者6名(男性5名,女性1名,年齢60~76歳)におけるミオクローヌスの多様性について報告がなされた.6名は異なる表現型のミオクローヌスを呈した.ミオクローヌス出現までの潜伏期間は,1日から129日であった.最も多く見られた表現型は全身性ミオクローヌスで4名であった.また特殊な表現型として,painful legs and moving toes症候群,ラザロ徴候(*)様ミオクローヌス,action myoclonus/ataxia syndrome,脊髄炎に続発する分節性ミオクローヌスが,単独ないし全身性ミオクローヌスに合併して認められた.検査では脳波の徐波化(てんかん波なし),頸髄MRIでのC5-7の浮腫,DATスキャンの取り込み低下を認めた(図3).治療としてはレベチラセタムとクロナゼパムが使用され有効であった.1名でステロイドが使用された.ミオクローヌスとは無関係の合併症で2名が死亡した.以上より,ミオクローヌスは表現型,発現までの潜伏期,起源の観点から,その多様性が示唆される.病態としては感染後・免疫介在性と考えられるが,さらなる検証が必要である.
Neurol Sci. Jan 6, 2022.(doi: 10.1007/s10072-021-05802-1)



*ラザロ徴候は,脳死患者が自発的に手や足を動かす徴候.名称は新約聖書でイエスによってよみがえったとされるユダヤ人のラザロに由来する.

◆パンデミックはヤコプ病患者数・生存率に影響しないが,診断やケアに影響を及ぼした.
英国から,COVID-19パンデミックがクロイツフェルト・ヤコプ病(CJD)サーベイランスに与えた影響を検討した研究が報告された.仮説は,パンデミックにより①診断までの期間が長くなる,②剖検率が低下する,③COVID-19感染が診断,治療,生存に悪影響を与える,である.方法としては,前年を比較対象として,パンデミックの初年度を後方視的に調査した.結果は,パンデミック初年度でCJDと診断されたのは148人で,前年は141人と大きな差はなく,生存期間(図4)や診断までの期間,剖検率も変わらなかった.COVID-19を罹患したのは20人(60%が症候性,10%が重症)で,それらの患者では診断とケアの混乱が高頻度に確認された.40%が死亡したが,COVID-19感染によりCJDの生存期間が大きく変わることはなかった.以上より,パンデミックは英国のCJD症例数や生存率には影響していないが,診断やケアに大きな影響を及ぼした.
Eur J Neurol. Dec 23, 2021.(doi.org/10.1111/ene.15228)





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