Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月19日)  

2022年02月19日 | 医学と医療
今回のキーワードは,オミクロン株では再感染が多い,誤情報・偽情報を主張する医師をめぐる米国の現状,です.

今週はNature誌とJAMA誌の論評が目に留まりました.前者は英国の検討で,オミクロン株は従来の変異株と異なり,再感染率が高いことを紹介しています.英国では新規感染者数がなかなか下がりきりませんが,その原因のひとつに再感染があるということです.南アフリカでは速やかにピークアウトしましたが,一時的なロックダウンが有効であったと考えられています.これに対し英国はコロナ規制を緩和・解除の方向ですので,再感染は増加するものと思われます.日本でも今後,再感染率に注目する必要があるように思います.

一方,後者では医師による誤情報・偽情報について議論しています.専門性の高い医師による誤情報・偽情報は言論の自由の範囲外の「過失」であり,「職業倫理に反する行為」と言えるという意見が紹介されています.本邦でも人々の健康の不利益に直結する医師の誤情報・偽情報は放置されていますので,真剣に議論する必要性を感じます.

FBで読みにくい方はブログ()をご覧ください.

◆オミクロン株では再感染が多い.
Nature誌のNEWS欄で,オミクロン株による再感染の問題が議論されている.英国保健安全局が収集したデータによると,イングランドでは65万人以上がおそらく2回感染しており,そのほとんどが過去2カ月間に再感染している.11月中旬以前は,COVID-19の報告例のうち再感染が占める割合は約1%であったが,現在は約10%に増加している.同局では,前回の感染から少なくとも3ヵ月後に感染した場合,その感染を「再感染の可能性」と見なしているが,それより早く再感染した症例もあるため,再感染率はさらに高くなるものと考えられる.これは従来の変異体では認めなかった特徴である.この原因として,オミクロン株は免疫防御機能を回避することができるため,ワクチン接種者や過去に感染した人々にも感染でき,感染者急増に拍車をかけていると考えられる.感染が今後どのように増加し,病院が対応できるかを評価するためには,再感染率を把握することが重要である.
Nature. Feb 16, 2022(doi.org/10.1038/d41586-022-00438-3)



◆誤情報・偽情報を主張する医師をめぐる米国の現状.
JAMA誌が医師による誤情報,偽情報に関する米国の現状を議論している.医師による誤情報,偽情報は昔からあったが,ソーシャルメディアの登場により,今回のパンデミックでは劇的に増加した.また政治的なアイデンティティーと絡み合っていることも特徴である.誤情報,偽情報を主張する医師は,科学者ではない人には説得力のある専門的な言葉で表現することが多い.なぜなら一般の人にはそれを否定する知識がないためである.

しかしこれらに対する苦情も増加している.昨年12月,米国の成人2200人を対象に行った世論調査では,78%がCOVID-19に関して誤情報,偽情報(例;ワクチン,マスク,イベルメクチンなど)を意図的に広めた医師は懲戒されるべきだと回答した.患者と医師の信頼を損ない,またワクチン接種拒否などに直結するため(*),人々の健康に直接影響を及ぼすという点で最も悪質である.医師会や専門委員会もこれらの医師の懲戒処分に同意している.
*ジョンズ・ホプキンス大学は,米国で200万~1200万人が,誤情報,偽情報のためにCOVID-19ワクチンを接種していないと推定している.

しかし実際に懲戒処分を受けた医師はほとんどいない.その理由として医師免許を停止・取り消しできるのは州の医療委員会であること,職業を規制する法律や規則に違反していないこと,医師は同僚を避難しにくいこと,そして医師の言論の自由が挙げられる.これに対し,デマを広める医師が懲戒処分を受けないことに対抗する非営利団体「No License for Disinformation」が設立された一方,医師免許を停止できる州の医療委員会の権限や委員会自体をなくそうとする政治的活動も起きている.また医師の言論の自由に関して,専門的な言論は同じく扱えないという意見がある.例えば脳腫瘍ではないのに脳腫瘍であると言った場合,それは言論の自由ではなく,過失である.一般的な医学的証拠に真っ向から反した発言をすることは,職業倫理に反する行為と言える.
JAMA. Feb 16, 2022.(doi.org/10.1001/jama.2022.1083)



この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 垂直方向性核上性注視麻痺を... | TOP | 新型コロナウイルス感染症COV... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 医学と医療