今回のキーワードは,COVIDワクチン4回目の接種で,オミクロン感染に対してはわずかなブーストしか得られない,オミクロン株に対するT細胞応答は,8割の感染者およびワクチン接種者で維持される,BA.2系統の重症度はBA.1系統と同程度である,65歳以上においてCOVID-19診断後の最初の3日間は急性虚血性脳卒中のリスクが10倍増加する,COVID-19生存者ではさまざまな精神疾患の発症リスクが高い,です.
今回は最初の2つの論文で,オミクロン株に対するmRNAワクチンの限界が示されています.ひとつめの論文では3回目のワクチン接種は中和抗体反応を高めるため重要であるものの,それ以上回数を増やしても限度があり,いつまでも高め続けることはできない可能性を議論しています.2つめの論文は,mRNAワクチンはT細胞応答を介する防御機構をもたらしますが,オミクロン株に対しては維持されているものの,一部の個体では低下していることが示されました.以上を踏まえると,オミクロン株のような新たな変異株に対する次世代ワクチンの開発が必要な状況になってきました.さいわいBA2系統(ステルスオミクロン)の重症度はBA1系統と同等のようですが,次世代ワクチンが登場するまでは,感染拡大を極力抑えてより深刻な変異株の誕生を防ぐ必要性を感じます.
◆COVIDワクチン4回目の接種で,オミクロン感染に対してはわずかなブーストしか得られない.
Nature誌のNEWS欄で,イスラエルのプレプリント論文(doi.org/10.1101/2022.02.15.22270948)を議論している.mRNAワクチンの銘柄に関係なく,4回目の接種で,中和抗体のレベルは上昇するものの,そのレベルは3回目の接種直後に観察されたレベルを上回らず,ワクチンが上限に達したことが示唆された(図1).つまり現在のmRNAワクチンは3回目の接種で「免疫力の上限」に達し,いつまでも抗体反応を高め続けることはできないと考えられた.言い換えると,4回以上の接種は,おそらく時間の経過とともに失われる免疫力を回復させるだけと言える.また4回目の接種を行っても,軽症または無症状のオミクロン感染症の予防効果が低いこと,およびブレークスルー感染者でもウイルス量が多く感染力が高いことから,次世代ワクチン開発の緊急性が高まっていると述べている.以上より,3回目のブースター接種はきわめて重要であるが,若くて健康で危険因子がない人では,4回目接種の効果が乏しい可能性がある.しかし重症化するリスクの高い人たちにとって有益である可能性があり,イスラエル,チリ,スウェーデンなどいくつかの国では,高齢者などに4回目接種を行っている.ただし,この試験はサンプル数が少なく,不確実性が大きい可能性も指摘されている.
Nature. Feb 23, 2022(https://www.nature.com/articles/d41586-022-00486-9)
◆オミクロン株に対するT細胞応答は,8割の感染者およびワクチン接種者で維持される.
オミクロン株は抗体反応から逃れることができる変異を有するが,スパイクおよび非スパイクタンパク質における変異がどの程度T細胞の認識に影響するかは不明である.先行感染,ワクチン接種,およびブースター接種を受けた個体のT細胞応答について検討した研究が報告された.この結果,オミクロン株に対するT細胞応答は,ほとんどの感染者およびワクチン接種者で維持されていた.しかしオミクロン株スパイクに対するT細胞反応性が50%以上低下している個体が約21%同定された(デルタ株の場合よりも高い頻度).機能的なCD4+およびCD8+メモリーT細胞応答について検討したところ,このオミクロン株スパイクに対する認識の低下は主にCD8+T細胞で観察され,HLAクラスI制限エピトープから逃れるものと考えられた.一方,ブースター接種は,オミクロン株スパイクに対するT細胞応答を増強した(ただし9%の個体でT細胞反応性は低下していた).以上より,中和抗体とは対照的に,オミクロン株スパイクに対するT細胞応答は維持されていることが示唆された.しかし一部の個体ではブースター接種も含め,反応性が低下していた.
Cell. 2022 Feb 3:S0092-8674(22)00140-4(doi.org/10.1016/j.cell.2022.01.029)
◆BA.2系統の重症度はBA.1系統と同程度である.
オミクロン株BA.1系統は,デルタ株と比較して,入院や重症化のリスクが低いことが示されている.一方,BA.2系統が世界各地で増加している.BA.2はBA.1と比較して,より感染しやすく,より重症化しやすいとの報道がある.今回,プレプリント論文ではあるが,南アフリカにおけるBA.1とBA.2の重症度を比較した研究が報告された.2021年第49週(12月5日)から2022年第4週(1月29日)にかけて,BA.2感染者の割合は,3%(931/3万1271人)から80%(2425/3031人)に増加していた.2022年第2~3週で,BA.2が優勢に置き換わった(図2).また入院率はBA.2で3.6%,BA.1で3.4%,入院のオッズは両者で差がなかった(調整オッズ比(aOR)0.96).入院した患者において,重症化に関連する因子を調整した後,重症化のオッズを調べると,両者で差がなかった(aOR 0.91).以上より,BA.2はBA.1よりも優勢となりうるが,重症化については同程度であることが示唆された.
MedRxiv . Feb 19, 2022(doi.org/10.1101/2022.02.17.22271030)
◆65歳以上において,COVID-19診断後の最初の3日間は急性虚血性脳卒中のリスクが10倍増加する.
米国からCOVID-19と急性虚血性脳卒中(AIS)のリスクとの関連を検討した研究が報告された.2020年4月から2021年2月までにCOVID-19と診断され,2019年1月から2021年2月までにAISで入院した65歳以上の健康保険プログラム・メディケアのfee-for-service(診療ごとの個別支払い)を行う3万7379人を対象とした.COVID-19の診断時年齢の中央値は80.4歳(四分位範囲73.5-87.1歳),女性が56.7%であった.感染曝露日(day = 0)のAISをリスク期間に含めると,COVID-19診断後0~3日,4~7日,8~14日,15~28日の感染群と非感染群の疾病発生率の比(incidence rate ratio;IRR)は,10.3,1.61,1.44,1.09であった(図3).脳卒中の既往がない人や若い人ほど関連が強かったが,性別や人種・民族を問わず,ほぼ一貫していた.
Neurology. Feb 3, 2022(doi.org/10.1212/WNL.0000000000013184)
◆COVID-19生存者ではさまざまな精神疾患の発症リスクが高い.
米国からCOVID-19生存者における精神疾患の発症リスクを推定したコホート研究が報告された.感染後30日間を生き延びた15万3848人のCOVID-19群と,2つの対照群,すなわち感染なしの対照群(563万7 840人),ないしパンデミック前の歴史的対照群(585万9 251人)を比較した.主要評価項目は1年後の1000人当たりのハザード比および絶対リスク差とした.結果は,COVID-19群は,不安障害(ハザード比1.35,リスク差11.06/1000人・年),うつ病(同1.39,15.12),ストレス・適応障害(同1.38,13.29),抗うつ薬の使用(同1.55,21.59),ベンゾジアゼピンの使用(同1.65,10.46)のリスクを増加させた(図4).オピオイド,薬物乱用も増加した.また,COVID-19群では,認知機能低下(1.80,10.75)や睡眠障害(1.41,23.80)の発症リスクも高くなった.精神科での診断や処方を受けるリスクも増加した(1.60,64.38).歴史的対照群を用いても同様の結果であった.以上より,COVID-19生存者ではさまざまな精神疾患の発症リスクが高く,優先的な取り組みが求められる.
BMJ 2022;376:e068993(doi.org/10.1136/bmj-2021-068993)
今回は最初の2つの論文で,オミクロン株に対するmRNAワクチンの限界が示されています.ひとつめの論文では3回目のワクチン接種は中和抗体反応を高めるため重要であるものの,それ以上回数を増やしても限度があり,いつまでも高め続けることはできない可能性を議論しています.2つめの論文は,mRNAワクチンはT細胞応答を介する防御機構をもたらしますが,オミクロン株に対しては維持されているものの,一部の個体では低下していることが示されました.以上を踏まえると,オミクロン株のような新たな変異株に対する次世代ワクチンの開発が必要な状況になってきました.さいわいBA2系統(ステルスオミクロン)の重症度はBA1系統と同等のようですが,次世代ワクチンが登場するまでは,感染拡大を極力抑えてより深刻な変異株の誕生を防ぐ必要性を感じます.
◆COVIDワクチン4回目の接種で,オミクロン感染に対してはわずかなブーストしか得られない.
Nature誌のNEWS欄で,イスラエルのプレプリント論文(doi.org/10.1101/2022.02.15.22270948)を議論している.mRNAワクチンの銘柄に関係なく,4回目の接種で,中和抗体のレベルは上昇するものの,そのレベルは3回目の接種直後に観察されたレベルを上回らず,ワクチンが上限に達したことが示唆された(図1).つまり現在のmRNAワクチンは3回目の接種で「免疫力の上限」に達し,いつまでも抗体反応を高め続けることはできないと考えられた.言い換えると,4回以上の接種は,おそらく時間の経過とともに失われる免疫力を回復させるだけと言える.また4回目の接種を行っても,軽症または無症状のオミクロン感染症の予防効果が低いこと,およびブレークスルー感染者でもウイルス量が多く感染力が高いことから,次世代ワクチン開発の緊急性が高まっていると述べている.以上より,3回目のブースター接種はきわめて重要であるが,若くて健康で危険因子がない人では,4回目接種の効果が乏しい可能性がある.しかし重症化するリスクの高い人たちにとって有益である可能性があり,イスラエル,チリ,スウェーデンなどいくつかの国では,高齢者などに4回目接種を行っている.ただし,この試験はサンプル数が少なく,不確実性が大きい可能性も指摘されている.
Nature. Feb 23, 2022(https://www.nature.com/articles/d41586-022-00486-9)
◆オミクロン株に対するT細胞応答は,8割の感染者およびワクチン接種者で維持される.
オミクロン株は抗体反応から逃れることができる変異を有するが,スパイクおよび非スパイクタンパク質における変異がどの程度T細胞の認識に影響するかは不明である.先行感染,ワクチン接種,およびブースター接種を受けた個体のT細胞応答について検討した研究が報告された.この結果,オミクロン株に対するT細胞応答は,ほとんどの感染者およびワクチン接種者で維持されていた.しかしオミクロン株スパイクに対するT細胞反応性が50%以上低下している個体が約21%同定された(デルタ株の場合よりも高い頻度).機能的なCD4+およびCD8+メモリーT細胞応答について検討したところ,このオミクロン株スパイクに対する認識の低下は主にCD8+T細胞で観察され,HLAクラスI制限エピトープから逃れるものと考えられた.一方,ブースター接種は,オミクロン株スパイクに対するT細胞応答を増強した(ただし9%の個体でT細胞反応性は低下していた).以上より,中和抗体とは対照的に,オミクロン株スパイクに対するT細胞応答は維持されていることが示唆された.しかし一部の個体ではブースター接種も含め,反応性が低下していた.
Cell. 2022 Feb 3:S0092-8674(22)00140-4(doi.org/10.1016/j.cell.2022.01.029)
◆BA.2系統の重症度はBA.1系統と同程度である.
オミクロン株BA.1系統は,デルタ株と比較して,入院や重症化のリスクが低いことが示されている.一方,BA.2系統が世界各地で増加している.BA.2はBA.1と比較して,より感染しやすく,より重症化しやすいとの報道がある.今回,プレプリント論文ではあるが,南アフリカにおけるBA.1とBA.2の重症度を比較した研究が報告された.2021年第49週(12月5日)から2022年第4週(1月29日)にかけて,BA.2感染者の割合は,3%(931/3万1271人)から80%(2425/3031人)に増加していた.2022年第2~3週で,BA.2が優勢に置き換わった(図2).また入院率はBA.2で3.6%,BA.1で3.4%,入院のオッズは両者で差がなかった(調整オッズ比(aOR)0.96).入院した患者において,重症化に関連する因子を調整した後,重症化のオッズを調べると,両者で差がなかった(aOR 0.91).以上より,BA.2はBA.1よりも優勢となりうるが,重症化については同程度であることが示唆された.
MedRxiv . Feb 19, 2022(doi.org/10.1101/2022.02.17.22271030)
◆65歳以上において,COVID-19診断後の最初の3日間は急性虚血性脳卒中のリスクが10倍増加する.
米国からCOVID-19と急性虚血性脳卒中(AIS)のリスクとの関連を検討した研究が報告された.2020年4月から2021年2月までにCOVID-19と診断され,2019年1月から2021年2月までにAISで入院した65歳以上の健康保険プログラム・メディケアのfee-for-service(診療ごとの個別支払い)を行う3万7379人を対象とした.COVID-19の診断時年齢の中央値は80.4歳(四分位範囲73.5-87.1歳),女性が56.7%であった.感染曝露日(day = 0)のAISをリスク期間に含めると,COVID-19診断後0~3日,4~7日,8~14日,15~28日の感染群と非感染群の疾病発生率の比(incidence rate ratio;IRR)は,10.3,1.61,1.44,1.09であった(図3).脳卒中の既往がない人や若い人ほど関連が強かったが,性別や人種・民族を問わず,ほぼ一貫していた.
Neurology. Feb 3, 2022(doi.org/10.1212/WNL.0000000000013184)
◆COVID-19生存者ではさまざまな精神疾患の発症リスクが高い.
米国からCOVID-19生存者における精神疾患の発症リスクを推定したコホート研究が報告された.感染後30日間を生き延びた15万3848人のCOVID-19群と,2つの対照群,すなわち感染なしの対照群(563万7 840人),ないしパンデミック前の歴史的対照群(585万9 251人)を比較した.主要評価項目は1年後の1000人当たりのハザード比および絶対リスク差とした.結果は,COVID-19群は,不安障害(ハザード比1.35,リスク差11.06/1000人・年),うつ病(同1.39,15.12),ストレス・適応障害(同1.38,13.29),抗うつ薬の使用(同1.55,21.59),ベンゾジアゼピンの使用(同1.65,10.46)のリスクを増加させた(図4).オピオイド,薬物乱用も増加した.また,COVID-19群では,認知機能低下(1.80,10.75)や睡眠障害(1.41,23.80)の発症リスクも高くなった.精神科での診断や処方を受けるリスクも増加した(1.60,64.38).歴史的対照群を用いても同様の結果であった.以上より,COVID-19生存者ではさまざまな精神疾患の発症リスクが高く,優先的な取り組みが求められる.
BMJ 2022;376:e068993(doi.org/10.1136/bmj-2021-068993)