4月18日に「近未来の脳神経内科 ―神経疾患を発症前から治療する―」と題して,「血清ニューロフィラメント軽鎖(sNfL)は近い将来,血液検査の炎症の指標であるCRPのように使用されるだろう」というNeurology誌の論文を紹介しました(Halloway S, et al. 2022).NfLは神経細胞に特異的なタンパク質で,神経細胞が軸索の変性や炎症により破壊されると放出され,血液中にも移行します.超高感度免疫測定法を用いることで測定できます.つまり神経変性や炎症,脱髄の程度を客観的に血液検査で評価できる時代がすぐそこまで来ています.
研究レベルですがすでに多くの疾患で測定結果が報告されています.次の課題は従来の検査値と同様,正常値,つまり多数の健常者のデータを解析し,sNfLの変動およびそれを予測する因子の解析になります.今回,Ann Neurol誌にまさにそのデータが報告され,興味深く読みました.
方法としては,全米健康・栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES)のデータを使用しています.これはライフスタイル,臨床検査,健康状態に関する情報を体系的に収集した米国人口のサンプルです.対象は神経疾患を持たない1706人(年齢43.6±14.8歳,男性50.6%,非白人35%)で,50以上の予測因子の影響を検討しています.結果として,一変量モデルでは,年齢がsNfLの変動を最もよく説明しました(R2cv=26.8%).多変量モデルでは3つの共変量,すなわち年齢,血清クレアチニン,HbA1cがsNfLの上昇を強く陽性に予測することが示されました(標準化β;年齢0.46,クレアチニン0.18,HbA1c 0.09;図1右).血清クレアチニンとHbA1cは,年齢を考慮した後でも,sNfLの上昇と強く関連していました.同定された予測因子を組み込んだ調整済み百分位曲線として図1左が作成されました.
以上より,sNfLを評価する場合,年齢以外の要因として腎機能および代謝マーカーも考慮する必要があることが明らかになりました.著者は腎機能がNfLのクリアランスに重要であり,sNfLの測定値を解釈する際に考慮すべきと述べています(クリアランスのみならず,原因となる腎疾患によっては脳障害が生じる間接的な要因になるようにも思います).またHbA1cがsNfLの上昇と関連するメカニズムは明らかではないものの,糖尿病性神経障害,網膜症,脳血管障害などの微小血管疾患合併症がNfL放出に関係しているのではないかと推測しています.
今回の結果により,対象疾患とsNfLの関連をより正確に解釈できるようになります.近未来,外来での初診時に,血清のNfL濃度,クレアチニン,HbA1cをアプリに入力して,神経疾患のスクリーニングや重症度予測,さらには発症予測をする時代が来るものと思われます.
Fitzgerald KC, et al. Contributors to serum NfL levels in people without neurologic disease. Ann Neurol. 2022 Jun 21. doi: 10.1002/ana.26446.
Halloway S, et al. Association of Neurofilament Light With the Development and Severity of Parkinson Disease. Neurology. 2022;98:e2185-e2193.
研究レベルですがすでに多くの疾患で測定結果が報告されています.次の課題は従来の検査値と同様,正常値,つまり多数の健常者のデータを解析し,sNfLの変動およびそれを予測する因子の解析になります.今回,Ann Neurol誌にまさにそのデータが報告され,興味深く読みました.
方法としては,全米健康・栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES)のデータを使用しています.これはライフスタイル,臨床検査,健康状態に関する情報を体系的に収集した米国人口のサンプルです.対象は神経疾患を持たない1706人(年齢43.6±14.8歳,男性50.6%,非白人35%)で,50以上の予測因子の影響を検討しています.結果として,一変量モデルでは,年齢がsNfLの変動を最もよく説明しました(R2cv=26.8%).多変量モデルでは3つの共変量,すなわち年齢,血清クレアチニン,HbA1cがsNfLの上昇を強く陽性に予測することが示されました(標準化β;年齢0.46,クレアチニン0.18,HbA1c 0.09;図1右).血清クレアチニンとHbA1cは,年齢を考慮した後でも,sNfLの上昇と強く関連していました.同定された予測因子を組み込んだ調整済み百分位曲線として図1左が作成されました.
以上より,sNfLを評価する場合,年齢以外の要因として腎機能および代謝マーカーも考慮する必要があることが明らかになりました.著者は腎機能がNfLのクリアランスに重要であり,sNfLの測定値を解釈する際に考慮すべきと述べています(クリアランスのみならず,原因となる腎疾患によっては脳障害が生じる間接的な要因になるようにも思います).またHbA1cがsNfLの上昇と関連するメカニズムは明らかではないものの,糖尿病性神経障害,網膜症,脳血管障害などの微小血管疾患合併症がNfL放出に関係しているのではないかと推測しています.
今回の結果により,対象疾患とsNfLの関連をより正確に解釈できるようになります.近未来,外来での初診時に,血清のNfL濃度,クレアチニン,HbA1cをアプリに入力して,神経疾患のスクリーニングや重症度予測,さらには発症予測をする時代が来るものと思われます.
Fitzgerald KC, et al. Contributors to serum NfL levels in people without neurologic disease. Ann Neurol. 2022 Jun 21. doi: 10.1002/ana.26446.
Halloway S, et al. Association of Neurofilament Light With the Development and Severity of Parkinson Disease. Neurology. 2022;98:e2185-e2193.