健康寿命とはWHOが提唱したもので「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を指します.よって平均寿命と健康寿命の差は「健康ではない期間」を意味します.2019年において日本人では男性8.73年,女性12.06年でした.今後,我が国では2050年まで75歳以上の人口は増加し続けますし,現役の人口は2040年までに約1000万人以上減少します(2040年問題).医療費や介護費は増加するものの支える側は減り,さらに「健康ではない期間」が伸びると,もはや日本は国家として成り立たなくなります.健康寿命を延ばすことが極めて重要になります.
高齢者の疾患で,今後増加するものは,認知症,脳卒中,神経変性疾患(パーキンソン病など)といった脳の病気です.つまり脳神経内科医はこれら疾患の診療のみならず,これらをどのように予防し,健康寿命を延ばすか世の中に提言するという重大な役割があります.とくに科学的裏付けのある認知症予防についての啓発活動が求められます.しかし認知症は不均一な疾患であるため,そのリスク予測は年齢,性別,血管性危険因子,臓器障害(脳卒中,非脳卒中心血管障害,慢性腎不全,心房細動)などを考慮し,個人に合わせて行う必要があります.
最新のNeurology誌に重要な報告がなされています.認知症リスクにかかわる血管性危険因子を,年齢別に決定したという報告です.有名な疫学研究であるフラミンガム研究(Framingham Heart Study)の一環として行われた前方視的コホート研究です.
結論を述べると,ステップワイズモデルにて,55歳では収縮期血圧と糖尿病が65歳からの10年間の認知症発症リスク上昇と関連していました.とくに糖尿病によるリスク上昇は大きく,その後も依然,危険因子として認知症に関わります.よって血糖コントロールは認知症予防に極めて重要です.また降圧治療も,大血管・小血管疾患のリスクを減らすことで,認知機能を保護する効果が期待されます.
65歳では非脳卒中心血管障害,70歳と75歳では糖尿病と脳卒中,80歳では糖尿病,脳卒中,降圧剤を使用しないことが認知症の最も重要な血管危険因子でした.例えば70歳での脳卒中は,認知症の10年リスクを3.5倍以上増加させ,その関連は後年まで持続しました.脳卒中の既往は,70〜80歳における重要な危険因子であることが明らかになりました.また年齢が上がるにつれて,脳卒中に加え,心房細動,非脳卒中心血管障害といった血管系リスクの累積による末端臓器の障害が将来の認知症発症につながることも示されました.
このように医療者は年代ごとの危険因子を意識して,生活指導や治療を行い,各人に合った認知症予防を推進する必要があります.一般のひとも年代にあった認知症予防を心掛ける必要があります.
Neurology. 2022 May 18:10.1212/WNL.0000000000200521.
(doi.org/10.1212/WNL.0000000000200521)
高齢者の疾患で,今後増加するものは,認知症,脳卒中,神経変性疾患(パーキンソン病など)といった脳の病気です.つまり脳神経内科医はこれら疾患の診療のみならず,これらをどのように予防し,健康寿命を延ばすか世の中に提言するという重大な役割があります.とくに科学的裏付けのある認知症予防についての啓発活動が求められます.しかし認知症は不均一な疾患であるため,そのリスク予測は年齢,性別,血管性危険因子,臓器障害(脳卒中,非脳卒中心血管障害,慢性腎不全,心房細動)などを考慮し,個人に合わせて行う必要があります.
最新のNeurology誌に重要な報告がなされています.認知症リスクにかかわる血管性危険因子を,年齢別に決定したという報告です.有名な疫学研究であるフラミンガム研究(Framingham Heart Study)の一環として行われた前方視的コホート研究です.
結論を述べると,ステップワイズモデルにて,55歳では収縮期血圧と糖尿病が65歳からの10年間の認知症発症リスク上昇と関連していました.とくに糖尿病によるリスク上昇は大きく,その後も依然,危険因子として認知症に関わります.よって血糖コントロールは認知症予防に極めて重要です.また降圧治療も,大血管・小血管疾患のリスクを減らすことで,認知機能を保護する効果が期待されます.
65歳では非脳卒中心血管障害,70歳と75歳では糖尿病と脳卒中,80歳では糖尿病,脳卒中,降圧剤を使用しないことが認知症の最も重要な血管危険因子でした.例えば70歳での脳卒中は,認知症の10年リスクを3.5倍以上増加させ,その関連は後年まで持続しました.脳卒中の既往は,70〜80歳における重要な危険因子であることが明らかになりました.また年齢が上がるにつれて,脳卒中に加え,心房細動,非脳卒中心血管障害といった血管系リスクの累積による末端臓器の障害が将来の認知症発症につながることも示されました.
このように医療者は年代ごとの危険因子を意識して,生活指導や治療を行い,各人に合った認知症予防を推進する必要があります.一般のひとも年代にあった認知症予防を心掛ける必要があります.
Neurology. 2022 May 18:10.1212/WNL.0000000000200521.
(doi.org/10.1212/WNL.0000000000200521)