Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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両側視床対称性病変で忘れてはならない疾患 ー日本脳炎ー

2022年08月25日 | 感染症
図の左上の頭部MRIは最新号のNEJM誌の症例です.診断は日本脳炎です.有名な疾患と画像所見ですが,自分は経験したことがありません.コガタアカイエカによって媒介され,増幅動物はブタです.ヒト-ヒト感染はありません.日本でも1960年代前半までは年間2000~4000人の患者数でしたが,日本脳炎ワクチンが導入された1970年代より激減し,1992年からは年間10人以下となっています.この理由として,ウイルスに感染したブタを刺した蚊に刺される機会が減ったことや,日本ではワクチンの接種率が高いことが挙げられています.しかしアジア地域では今なお最も重要なウイルス性脳炎と言われています.



今年になり,オーストラリアでアウトブレイクが発生し,40例の感染が生じ,5名が死亡したそうです.MRIの症例は45歳女性,発熱・意識障害で入院,両側視床のほか,右小脳半球,脳幹にT2強調高信号病変を認めました(右図は症例集積研究からの引用です).人工呼吸管理を行ったものの亡くなられ,剖検ではウイルス性全脳炎で(左下),視床,脳幹,上位頸髄に病変が目立ちました.視床より検出された日本脳炎ウイルス(JEV)の遺伝子型はⅣ型株でした.診断において重要なことは,本例もそうでしたが,脳脊髄液からJEV遺伝子が検出されることはきわめてまれで,急性期血清と回復期血清(ペア血清)を採取・保管し,JEV IgGとIgMを測定することです.

今後,日本でも日本脳炎が増加する恐れがあります.これまで日本で検出されたJEVの遺伝子型はⅢ型とⅠ型のみであり, 日本で用いられているワクチンはⅢ型株由来です(Ⅰ型株にも同程度の中和抗体ができます).近年,中国,韓国でV型株が検出されていますし,今回はⅣ型株で,日本への侵入した場合,現在のワクチンの防御能が低い可能性があります.特徴的な画像所見を見た場合,日本脳炎も忘れずに鑑別診断に挙げる必要があります.
N Engl J Med 2022; 387:661-662(doi.org/0.1056/NEJMc2207004)
Am J Trop Med Hyg 2017; 97: 369-375
日本脳炎ワクチンと日本脳炎ウイルス遺伝子型Ⅴ型

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