孤発性CJDの生前診断は,臨床経過に加え,脳波における周期性同期性放電(PSD)や頭部MRI所見を参考に行っているのが一般的と思われる.今回,孤発性CJDの生前診断目的に行われる種々の検査の陽性率に関する研究が報告された.この研究では,各検査の感度のみならず,発症年齢や罹病期間,分子サブタイプが与える影響まで検討しており,大変興味深い論文となった.
本研究はヨーロッパ諸国を中心とした国際共同研究として行われた(EUROCJD).対象は病理学的に診断が確定した2451例(!)の孤発性CJDで,遺伝性CJDは除外されている.登録期間は1992年から2002年までの10年間であった.検査として,脳波,頭部MRI,髄液14-3-3蛋白を検討した.脳波陽性例の定義としてはPSDを認めること,頭部MRIでの陽性例の定義としては被殻,尾状核の異常信号とした.分子サブタイプは,プリオン蛋白遺伝子のコドン129の多型(Met,Val)と抗プリオン蛋白プロテアーゼのタイプ(タイプ1,2)を組み合わせて行った.
さて結果であるが,まず患者の内訳としては、60歳代および70歳代の発症が最も多く、それぞれ38.3%,32.2%であった.80歳以上の発症も6.1%と少なからず存在することも分かった.検査別の陽性率は、14-3-3蛋白88.1%,脳波58.4%,頭部MRI 39.1%と、14-3-3蛋白の感度が最も高かった.
つぎに発症年齢と罹病期間が各検査に及ぼす影響についてであるが,脳波では発症年齢が高齢化するに従って陽性率が上昇し(80歳以上では65.3%),かつ罹病期間が短いほど陽性率が上昇した(6ヶ月未満は66.3%).髄液14-3-3蛋白では,罹病期間が短いほど陽性率が上昇したが(6ヶ月未満では92.7%),発症年齢による影響は認めなかった.これに対し頭部MRIでは,発症年齢と罹病期間のいずれも影響を与えなかった.
さらに分子サブタイプを決定できた743症例に限って検討を行った.脳波では50歳未満の発症例では陽性率が21.6%と低く,年齢が高齢化するに従い陽性率が上昇した(70歳代では67.3%と高率).また罹病期間が短いほど陽性率は上昇した.14-3-3蛋白では陽性率が分子サブタイプにかかわらず高率であったが,発症年齢による陽性率には差はなかった.しかしながら罹病期間との関連では12ヶ月未満では90%以上であるのに対し,12ヶ月以上で72.2%と低下した.一方,頭部MRIではやはり発症年齢や罹病期間は影響を及ぼさなかった.また分子サブタイプごとに評価を行うと,MV1,MV2,VV2,VV1/2は脳波の陽性率が低い,VV2は頭部MRIで陽性率が高い(95.2%),MM2、MM1/2、MV2は14-3-3蛋白の陽性率が低い,という結果であった.
以上より,検査によって感度が異なること(髄液14-3-3蛋白の感度が高い),かつ検査によっては発症年齢や罹病期間,分子サブタイプに影響を受けることが明らかになった.ここで疑問に思うのは頭部MRIの感度の低さであるが,これは観察期間が1992年からの10年間であり,その意義や重要視されていなかったことや技術的な問題が影響しているものと考えられる(FLAIRや拡散強調画像を用いて,大脳皮質の信号異常まで評価すれば相当感度は高くなる).いずれにしても,孤発性CJDの生前検査の限界を認識することは重要であり,特にMV2やMM2のようにまれなタイプでは検査を組み合わせて行うことが重要であると考えられた.
Brain 129; 2278-2287, 2007
本研究はヨーロッパ諸国を中心とした国際共同研究として行われた(EUROCJD).対象は病理学的に診断が確定した2451例(!)の孤発性CJDで,遺伝性CJDは除外されている.登録期間は1992年から2002年までの10年間であった.検査として,脳波,頭部MRI,髄液14-3-3蛋白を検討した.脳波陽性例の定義としてはPSDを認めること,頭部MRIでの陽性例の定義としては被殻,尾状核の異常信号とした.分子サブタイプは,プリオン蛋白遺伝子のコドン129の多型(Met,Val)と抗プリオン蛋白プロテアーゼのタイプ(タイプ1,2)を組み合わせて行った.
さて結果であるが,まず患者の内訳としては、60歳代および70歳代の発症が最も多く、それぞれ38.3%,32.2%であった.80歳以上の発症も6.1%と少なからず存在することも分かった.検査別の陽性率は、14-3-3蛋白88.1%,脳波58.4%,頭部MRI 39.1%と、14-3-3蛋白の感度が最も高かった.
つぎに発症年齢と罹病期間が各検査に及ぼす影響についてであるが,脳波では発症年齢が高齢化するに従って陽性率が上昇し(80歳以上では65.3%),かつ罹病期間が短いほど陽性率が上昇した(6ヶ月未満は66.3%).髄液14-3-3蛋白では,罹病期間が短いほど陽性率が上昇したが(6ヶ月未満では92.7%),発症年齢による影響は認めなかった.これに対し頭部MRIでは,発症年齢と罹病期間のいずれも影響を与えなかった.
さらに分子サブタイプを決定できた743症例に限って検討を行った.脳波では50歳未満の発症例では陽性率が21.6%と低く,年齢が高齢化するに従い陽性率が上昇した(70歳代では67.3%と高率).また罹病期間が短いほど陽性率は上昇した.14-3-3蛋白では陽性率が分子サブタイプにかかわらず高率であったが,発症年齢による陽性率には差はなかった.しかしながら罹病期間との関連では12ヶ月未満では90%以上であるのに対し,12ヶ月以上で72.2%と低下した.一方,頭部MRIではやはり発症年齢や罹病期間は影響を及ぼさなかった.また分子サブタイプごとに評価を行うと,MV1,MV2,VV2,VV1/2は脳波の陽性率が低い,VV2は頭部MRIで陽性率が高い(95.2%),MM2、MM1/2、MV2は14-3-3蛋白の陽性率が低い,という結果であった.
以上より,検査によって感度が異なること(髄液14-3-3蛋白の感度が高い),かつ検査によっては発症年齢や罹病期間,分子サブタイプに影響を受けることが明らかになった.ここで疑問に思うのは頭部MRIの感度の低さであるが,これは観察期間が1992年からの10年間であり,その意義や重要視されていなかったことや技術的な問題が影響しているものと考えられる(FLAIRや拡散強調画像を用いて,大脳皮質の信号異常まで評価すれば相当感度は高くなる).いずれにしても,孤発性CJDの生前検査の限界を認識することは重要であり,特にMV2やMM2のようにまれなタイプでは検査を組み合わせて行うことが重要であると考えられた.
Brain 129; 2278-2287, 2007
実は髄液14-3-3蛋白の感度は2006年10月頃より感度が変化しています。これは髄液14-3-3蛋白のアイソホームを変えているからです。頭部MRIについてはMRIの装置が0.5T,1.0T,1.5Tと様々であり、さらにDWI条件がばらばらです。これははっきり言ってドイツやEuroCJDだからacceptされているのです。
今度日本独自のデータをだすべきだと思います。