当科の大野陽哉先生らが担当した症例がNeuropathology誌に掲載されました.私も途中で「もしや!」と診断に気づいたのですが,経過は急速で救命できなかった症例です.入院時やや高血糖であった以外,免疫抑制状態はなく,湖や川の温かい淡水への曝露歴や海外渡航歴もない76歳女性でした.3週間前から頭痛を認め,意識障害のため入院しました.脳脊髄液では単核球優位の細胞増多,蛋白上昇,グルコース低下を認めました.抗菌薬・抗ウイルス薬による治療にもかかわらず,意識障害および髄膜刺激徴候は悪化,右動眼・外転神経麻痺,呼吸不全も1週間の経過で出現しました.頭部MRIで水頭症による左側脳室下角の開大,脳幹・小脳周囲に結核性髄膜炎を思わせる髄膜の造影効果を認め(図1),抗結核薬を開始しました.
この辺で脳腫瘍やアメーバが鑑別診断に挙がり,左側脳室下角周囲の白質から脳生検を行ったところ,血管周囲に空胞を伴うエオジン好性円形のorganismを認め,アメーバ性髄膜脳炎が濃厚となりました(図2).
アジスロマイシン,フルシトシン,リファンピシン,フルコナゾールを開始しましたが奏効せず,入院から42日目にお亡くなりになりました,剖検では脳はautolysisしていましたが,血管周囲の脳組織に多数のアメーバ嚢胞を認め,カンジダ感染も合併していました(図3).アメーバの16SリボソームRNA領域を解析したところ,Balamuthia mandrillarisと一致する塩基配列が検出されました.
本例より学んだのは,アメーバ性髄膜脳炎は免疫不全がなくても,かつ湖や川の温かい淡水への曝露歴や海外渡航歴がなくても鑑別診断に加える必要があること,そして脳神経麻痺,水頭症,髄膜増強効果といった結核性髄膜炎に似た所見を呈しうることです.致死率の非常に高い疾患で,救命できた症例は発症1週以内に早期診断をしていました.しかしその診断には脳生検が必要となり非常に厄介です(既報109例中88%で脳生検を要しています).それにしてもどこで感染したのか,とても気味が悪く思いました.
Ono Y, Higashida K, Yamanouchi K, Nomura S, Hanamatsu Y, Saigo C, Tetsuka N, Shimohata T. Balamuthia mandrillaris amoebic encephalitis mimicking tuberculous meningitis. Neuropathology. 2023 Jun 28.(doi.org/10.1111/neup.12932)
この辺で脳腫瘍やアメーバが鑑別診断に挙がり,左側脳室下角周囲の白質から脳生検を行ったところ,血管周囲に空胞を伴うエオジン好性円形のorganismを認め,アメーバ性髄膜脳炎が濃厚となりました(図2).
アジスロマイシン,フルシトシン,リファンピシン,フルコナゾールを開始しましたが奏効せず,入院から42日目にお亡くなりになりました,剖検では脳はautolysisしていましたが,血管周囲の脳組織に多数のアメーバ嚢胞を認め,カンジダ感染も合併していました(図3).アメーバの16SリボソームRNA領域を解析したところ,Balamuthia mandrillarisと一致する塩基配列が検出されました.
本例より学んだのは,アメーバ性髄膜脳炎は免疫不全がなくても,かつ湖や川の温かい淡水への曝露歴や海外渡航歴がなくても鑑別診断に加える必要があること,そして脳神経麻痺,水頭症,髄膜増強効果といった結核性髄膜炎に似た所見を呈しうることです.致死率の非常に高い疾患で,救命できた症例は発症1週以内に早期診断をしていました.しかしその診断には脳生検が必要となり非常に厄介です(既報109例中88%で脳生検を要しています).それにしてもどこで感染したのか,とても気味が悪く思いました.
Ono Y, Higashida K, Yamanouchi K, Nomura S, Hanamatsu Y, Saigo C, Tetsuka N, Shimohata T. Balamuthia mandrillaris amoebic encephalitis mimicking tuberculous meningitis. Neuropathology. 2023 Jun 28.(doi.org/10.1111/neup.12932)