(グラフ:アメリカ経済ニュースBlog より)
■ 失業率は低下しても、労働力率は1983年以来最低を記録 ■
アメリカの失業率が8.3%に低下したとして、
米国経済に回復の兆しがみられるという見解が出回っています。
Boogbergの記事は比較的冷静にこの件を分析しています。
「米雇用者数が1月に24万人増、労働力率は1983年来の最低 (2)」
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LYTKD20D9L3501.html
<引用開始>
2月3日(ブルームバーグ):1月の米雇用統計は予想を上回る増加となり、失業率は低下した。一方で、職探しをあきらめて労働市場から退出する人々が急増している。
米労働省が3日に発表した1月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数(事業所調査、季節調整済み)は前月比24万3000人増。ブルームバーグ・ニュースがまとめたエコノミストの予想中央値は14万人増だった。前月は20万3000人増(速報値は20万人増)に修正された。家計調査に基づく失業率は8.3%に低下。オバマ大統領が就任した翌月の2009年2月と同水準に戻った。同大統領が就任した09年1月の失業率は7.8%だった。
失業者に加え、経済悪化でパートタイム就労を余儀なくされている労働者や職探しをあきらめた人などを含む広義の失業率は15.1%と、前月(15.2%)から0.1ポイントの低下にとどまった。
職探しをあきらめ労働市場から退出する人々が大幅に増えており、非労働力人口は前月比で117万7000人急増した。これで4カ月連続増加。この結果、労働力率は63.7%と前月から0.3ポイントも低下、1983年5月以来の低水準に落ち込んだ。バーナンキ連邦準備制度理事会(FRB)議長は2日の下院予算委員会で証言し、「雇用市場が正常に機能していると言えるようになるのはまだずっと先のことだ」と述べた。
事業所統計に基づく民間部門の雇用者数は25万7000人増加。前月は22万人増。予想では16万人増だった。製造業部門の雇用者は5万人増、建設部門は2万1000人増加した。
政府職員は、連邦政府や地方行政・州政府の支出減の影響で1万4000人減少した。これで5カ月連続マイナスとなった。
時間当たりの平均賃金は前月比で0.2%増加して23.29ドル。週平均労働時間は34.5時間で前月と変わらず。
<引用終わり>
米国の労働力率推移グラフ
(グラフ:Bloogberg より)
労働力率 = 労働力人口(15歳以上) / 生産年齢人口(15歳以上)
アメリカでは労働可能でありながら、就労を諦めた人が増えており、
新たな雇用人数24万3000人に対して、
労働市場から退場した人が117万7000人も増えているのです。これを景気回復と報道するメディアやアナリストは正常ではありません。
■ アメリカ企業の業績回復はリストラや自社株買に支えられている ■
アメリカでは好調な企業業績も伝えられていますが、
これは企業がリストラによって人件費を大きく削った結果です。
労働生産性が向上したと言えば聞こえは良いですが、
その分、大量の失業者を生み出し、経済の足腰にダメージを与えています。
さらにFRBが潤沢に市場に資金提供しているので、
アメリカの企業は自社株を買い支えています。
ダウは既に実態を全く反映しない株価となっていますが、
自社株を買い支える事で、アメリカの企業は経営が安定している様に見せかけ、
さらに配当金のコストを軽減しています。
本来、事業資金を直接金融で調達する目的の株式市場で、
自社株を買っているのですから、この市場は既に崩壊していると言えます。
■ QE3期待で上向く景気 ■
アメリカの景気指標が上向いている理由に、
QE3を予測した先行投資という見方もある様です。
リーマンショック後、アメリカの経済指標はFRBの量的緩和の期間に向上し、
量的緩和の終了と同時に、悪化しています。
結局、資金の提供者がFRBしかいない事を物語っています。
「QE3があるかも知れない」という希望的観測に賭ける米経済は
成長どころか、かなりの重症な状態を脱していないと言えます。
その証拠として、新規住宅市場も中古住宅市場も泥沼状態です。
これらの市場は、国民に資金が行き渡らなければ上向く事はありません。
結局FRBの供給した資金は、金融市場にプールされ、
実態経済を刺激する事は出来ないのです。
■ 大統領選挙に向けて、甘々な経済指標が連発される ■
今年の末には大統領選挙が控えています。
オバマは再選に向け、色々と景気対策を打ち出すでしょう。
しかし、それらのもたらすものは「かりそめの回復」であり、
国民の財布が緩まない限り、アメリカ経済の復活もあり得ないのです。
現在世界で不足しているものは、適正な需要です。
中国の住宅バブルを見ても、
安い金利の資金供給によって生み出される需要は不健全です。
これを「バブル」と呼びます。
FRBや各国中央銀行の緩和政策は、
「ミニバブル」を作りこそすれ、実態経済のブースターにはなりません。
需要は「人々の将来への夢や楽観」が作り出します。
要は、「借金する勇気」が持てなければ、需要は生まれず、経済は悪化します。
ユーロ危機や、イラン危機、アジアからの資金の引き揚げ
日本の震災や放射能、財政削減や増税など、
「楽観」を許す材料はほとんどありません。
ですから私達は、将来に対する「無根拠な希望」は持っていますが、
「積極的な楽観」を抱く事はありません。