■ 憂露組から足抜けさんざぁ出来ねえぜ・・・ ■
「憂露の旦那ぁ、頼みますぜぃ、もう少し返済額をさげちゃもらえませんかねぇ・・。」
「お前さん、借りた金はきっちり返すってのが、義理ってもんだろう。
なんだい、あんたの名前にある義理たあ、そんな薄っぺらな義理なのかい。」
「なんでも、あんたの倅は、昼間っから女と出歩いているって噂じゃないか。
先だっても、徒党を組んで大暴れして、高利貸しの店に火をつけたとか・・・。」
「そんな、世間様に迷惑かけといて、借金まけてくれたあ、百年早いんじゃないかい。」
「でも、旦那、このままじゃ、あっしもかみさんも、借金踏み倒して、
夜逃げしなきゃなんねぃ・・」
「夜逃げだぁ。バカ言うんじゃないよ。
憂露組を足抜け出来るとでも思ってんのかい。
そんな事したら、お前は確実にそのに堀に浮かぶ事になるだろうよ。
可哀そうに、かみさんも娘も女郎屋送りさ。」
「まあ、そこを何とか、だんな、あとちょっと金があればどうにか・・・」
「仕方ねぇなあ。これきりだよ。
金貸し達には俺から良いように言っとくよ。
そのかわり、この証文に判をついちゃくれないかい。」
一) 憂露組の借金は優先的に返済する
二) 高利貸しの借金は半分はきっちりと払う
三) 女房と子供もしっかり働く
四) 稼いだ金はまず返済
「旦那、分かりやした。
これならどうにか借金が返せそうですぜ。」
「そうかい、俺もお前を見捨てたくはねえんだ。
ただな、おれも姉さんの顔は立てなきゃなんねえ。
姉さんさんにも立場ってもんがあるからな。」
■ お前さん、何無理な約束してんだよ ■
「お前さん、猿相手に何無理な約束してんだよ。」
「だて、お前、こうでもしなきゃ、俺は命がねえし、
お前だった女郎屋行きだ。」
「あたしも子供達もやだからね。
あくせく働いて、みんな組に持って行かれるなんざ、まっぴらだよ」
「でも、俺らがまっとうに働けば、返せねえことは無えだろ。」
「まっとうに働くって、うちの家系が一度でもまっとうに働いた事があったかね。
あたしはやだよ。
あたしゃ、こんな家出てくよ。
子供たちだって、どうせ組に売られるくらいならあたしが連れていくよ」
「おい、お前らの稼ぎがたよりなんだよ・・・」
■ 「さあきっちり金は返してくれるかい」 ■
「どうだい、義理舎。金は用意出来たかい。」
「へえ、それが旦那、女房と子供らが出ってちまいました。
とても俺一人の稼ぎじゃ・・・・」
「何だって、それじゃあ俺の面子が丸つぶれじゃねえか。
ねえさんに何ていやいいんだよ。」
■ 「まあ、義理舎には可哀そうだけど・・・」 ■
「猿、どうだい義理舎は金を返してくれたかい?」
「へえ、それが姉さん、あいつ女房子供に愛想つかされやして・・。」
「まあそんな事たあ、先刻分かってるけどね・・・。
それはそうと、片は付けたんだろうね。」
「へえ、きっちりと堀に浮かべときました。
他の者たちの見せしめにはなるかと。」
「そうかい、裸天界隈の連中は金にだらしないからね。
これでちったあ本気で働く気になるといいね。」
「ところで、姉さん、組のうるさ方の方はどうします。」
「そっちも義理舎を見たら金くらい出すだろう。
そりゃあ、夜逃げされたら貸した金は、返ってこないからね。
義理舎には可哀そうな事をしたけど、身からでた錆からね。」
その時、天井裏で聞き耳を立てる「岬の千蔵」の存在を二人は知る由も無い。