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インフレターゲット・・・エンジンの壊れた車のウィンカー

2012-02-15 05:04:00 | 時事/金融危機
 

■ 日銀1%のインフレターゲットに言及 ■

日銀は10兆円の追加緩和政策を発表しました。
その中で、「1%のインフレターゲット」と思しき発言をしています。
日銀に先立ってFRBのバーナンキ議長も
「2%のインフレターゲット」を明言しています。

FRBは兼ねてからインフレ率2%を目標として金利操作をしていたので、
今更インフレターゲットと言ってもインパクトはありません。

日銀は「2%以下で適正なインフレ率」的な表現をしていましたので、
1%と明言した事は、従来よりも一歩踏み込んだ形となります。


■ 非伝統的手法による緩和政策 ■

インフレターゲットに関しては、リフレ論者が兼ねてより要求していた事です。
ですから、今回の日銀の発言は、おとなしかったリフレ論を活気付かせるでしょう。

問題は1%のインフレ率の中身です。

日銀はとりあえず10兆円の緩和策を発表しました。

1) 本来インフレ率は金利政策でコントロールされる
2) 資金需要が無く、金利ゼロに近い現在金利操作は不可能
3) 日銀が市場から長期国債を買い入れて10兆円を資金供給

4) 既に日銀は55兆円の緩和策を実施中
5) 現行の緩和策は株や不動産まで買い上げる世界で類を見ない積極策

実は日銀の緩和策は、既にFRBの1周先を走っていました。
55兆円規模で、株ETFや不動産REITを買い上げるという
世界でも類を見ない(むちゃくちゃな)緩和政策です。

今回の10兆円を含めた日銀の買い取り資産の内訳は以下の通りだそうです。

長期国債19兆円(本年1月末現在の買入れ3.5兆円、以下同じ)、
国庫短期証券4.5兆円(2.3兆円)、
CP・2.1兆円(1.7兆円)、
社債2.9兆円(1.7兆円)、
ETF・1.4兆円(8479億円)、
REIT・1100億円(660億円)、
共通担保資金供給35兆円(32.8兆円)

合計が65兆円(43兆円)

それでも景気は回復しないし、インフレどころか日本はデフレです。



■ 長期国債を中心に買いあげる ■ 

今回の発表で注目すべき点は「長期国債を買い上げる」と発言している点です。

1) 日本の国際は日本の金融機関が安定消化していた
2) 中長期的な国債の不安感から、国内金融機関短期国債にシフトしている
3) 直近では海外勢が短期国債の4割を買っている

4) 短期国債の海外に保有高が高まるとリスクが高まる
5) 国内の金融機関の短期国債購入を高める必要がある
6) 国内金融機関から長期国債を買い上げて、短期国債を買い支えさせる。

7) 長期国債を国内金融機関が手放す傾向で長期金利に上昇圧力が生じている
8) 日銀の長期国債買い入れで長期金利を抑制する

今回の10兆円の緩和政策の狙いはこんな所でしょう。
要は、日本国債の需給環境が悪化しているのです。

■ アメリカのインフレターゲットは上手く働いているのか ■

ところで2%のインフレターゲットを実施しているアメリカはの現状はどうでしょう。

「1月の米小売売上高は予想下回る、自動車を除くベースでは増加」(ロイター02.15)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE81D00N20120214

<引用開始>

[ワシントン 14日 ロイター] 米商務省が発表した1月の小売売上高は前月比0.4%の増と市場予想を下回った。自動車購入が抑えられたことが要因。
ただ自動車などを除くコアの売上高は増加に転じたことから、堅調な景気回復を示す内容となった。

市場予想は0.7%増。前年同月比では5.8%増加した。

12月分は前月比変わらずに下方修正された。考えれれていたほど消費者が年末商戦期に買い物をしていなかったことを示している。

ジョン・トーマス・フィナンシャル(ニューヨーク)のチーフマーケットアナリスト、ウェイン・カフマン氏は「景気が改善しているという事実に疑問を差し挟む材料はない」と分析した。

自動車やガソリン、建材を除くコアの小売売上高は0.7%上昇した。

ガソリンスタンドの売上高は1.4%上昇し、2011年3月以来最大の伸びとなった。電子製品・機器は0.5%増加した。

自動車・部品は1.1%減少。オンラインなどの無店舗小売も1.1%減った。

<引用終わり>

全く情報操作にも程があるあきれた記事です。
この文章を常識的に解釈すれば次の様になります。

1) アメリカの小売業の売上は全く振るわない
2) クリスマス商戦も予想を下回るものだった
3) ガソリンの売る上が高が上昇したのは、ガソリン価格が上昇したから
4) 車など高額な耐久消費財の売上は全然振るわない

さてこれの何処か「堅調な景気回復を示す内容」なのでしょうか?
FRBの金融政策も有効には働いていない様です。

■ アメリカの用いる非伝統的手法 ■

アメリカはQE1、QE2という通貨の大増刷でインフレ率を維持しています。
しかし、その効果は一時的で、QE終了後は経済指標が下振れします。
アメリカが2%のインフレ率を維持する為には、
QEによって、市場を資金でジャブジャブにし続ける必要があります。

一方でドルの大増刷は、ドルや米国債の信認を薄れさせます。
既にアメリカの長期国債は敬遠されており、
FRBも長期金利抑制の為に、長期国債を買い上げるオペレーションを実施しています。

その他にアメリカは「非伝統的手法」を用いています。
それは、「ユーロ攻撃」です。
ムーディーズやS&Pにヨーロッパの格下げをさせて、
資金を米国に還流させています。


そこまでやっても、アメリカの景気は一向に持ち直しません。

■ エンジンの壊れた車 ■

現在の世界は「エンジンの壊れた車」です。

インチキ金融によって、高速でぶん回したエンジンは、
リーマンショックによって、壊れてしまいました。

しかし車は慣性によって、直ぐに止まる事はありません。
各国政府は、ギアーを変えてみたり、ハンドルを切ってみたり、
はたまた、インフレターゲットなどというウィンカーを点滅させますが、
若干、方向や速度に差が出る程度です。

エンジンの壊れた車に、量的緩和でガソリンを注ぎ足しても、
エンジンが壊れていては、意味がありません。
結局は車は、いずれは止まってしまいます。

最後は、クラッチ操作を誤って急停止するか、(ボルガールールやBIS規制)
戦争という下り坂で加速して、コーナーを曲がり切れずに崖から転落するかです。

インフレターゲットで一喜一憂する金融市場は、
明日の利益しか考えていないので、喜んだり悲しんだりできるのです。
中長期的に考えれば、既に勝敗は決しています。

その証拠に金融や保険業界のリストラが激化しています。
来るべき悪化に備えて、業界が身構えている証拠です。

さて、私達を乗せた車は、次のコーナを曲がり切れるでしょうか?