■ 建築業界からは5年後の世界が見える ■
私は建築設備関係の設計の仕事をしています。
建築は大型の設備投資なので、
現在設計している物件が完成するのは5年後だったります。
ですから、私達には5年後の景気がだいたい見えています。
私の力の無さにもよるのですが、
現在私が抱える物件のほとんどがアジア物件です。
英語は苦手ですが、メールのほとんどが英語になってしまいました。
ところが、建築業界は現在アジアで受注出来ません。
韓国の現代建築や中国の建築会社が技術力を付けてきており、
破格の価格で受注してしまうので、
日本のゼネコンは価格で太刀打ちできないのです。
製造業と同様に、日本のコスト体質では、建築業も負けるのです。
私の記事の内容が、日本の将来に悲観的になるのは、
そんな職業上の事情にもよるのかも知れません。
■ 2003年から2005年は建築のミニバブルが発生した ■
(日本政策投資銀行 今月のトピックスNo.120より)
(日本政策投資銀行 今月のトピックスNo.120より)
建築業界にいる私達の目から見て2005年はターニングポイントでした。
2003年頃から都心を中心にマンションの建設ラッシュが起こり、
「都心回帰」を合言葉に湾岸地域を中心に高層マンションの建設がブームとなり、
それが近郊駅前などに波及していました。
折しも、日銀は金融緩和を続けており、
潤沢な資金がデベロッパーに流れ込んでいました。
又、コストの安い「円」を調達した海外の投資ファンドが、
日本のデベロッパーに資金を大量に貸し付けていました。
2003年から2005年はマンション建築のミニバブルが訪れていました。
業界では「バブル」を警戒しながらも、ささやかな活況に浮かれていました。
■ 2005年の「耐震強度偽装事件」によって潰されたミニバブル ■
ところが、2005年10月に「耐震強度偽装事件」が発覚します。
イーホームズの藤田東吾氏の告発によって
一部の業者が開発するマンションやホテルの耐震強度が不足していいる事が発覚します。
これは世間を騒がす大問題に発展し、
既に入居が完了しているマンションを建て替える様な事態まで発生します。
この事件をきっかけに、建築確認申請が厳格化され、
当時計画されていた建築のほとんどが、
半年間認可が下りないという異常事態が発生しました。
結果的に「建築のミニバブル」は見事にはじけ飛びました。
それは上のグラフに端的に表れています。
2003年ごろから上向いていた住宅(マンション)の供給量は
2005年をピークにして下降しています。
建築分野は裾野の広い分野です。
材料や資材まで含めると、雇用に与える影響は小さくはありません。
ですから、建築業に投下された資金は、社会を潤します。
住宅建築が景気を先導する事は、
アメリカや中国の住宅バブルを見ても明らかです。
ですから「耐震強度偽装事件」が発覚していなければ、
日本の経済はあるいは回復軌道に載っていたのかも知れません。
■ 2006年のライブドア事件が株式のミニバブルを潰した ■
上のグラフは日経平均の推移を表しています。
バブル崩壊で下落した株価は、2003年頃から持ち直します。
これも日銀の緩和資金が流入した為です。
ライブドアーやソフトバンク、楽天などのIT関連株のブームが起こります。
ところが、2006年に「ライブドア事件」や「村上ファンド事件」が起こり
日経平均は急落します。
株式市場の上昇は経済を牽引します。
確かにこの時期の株価上昇は「過剰流動性」によるバブル相場とも言えますが、
その影響で、景気の回復の兆しが見えていた事も確かです。
この時期、円キャリートレードによる円安で、
輸出企業は空前の好景気が続いていました。
日本経済は現在言われていう様な「失われた20年」では無く、
回復の息吹を確かに感じていた時期があるのです。
■ 2005年、2006年が日本の第三の敗戦では無いか ■
「耐震強度偽装」は確かに許されざる行為です。
しかし、建築業界のコストダウンへの圧力は強く、
起こるべきして起こった事件とも言えます。
折しも、中国の建設ラッシュで鉄筋などの資材が値上がりしており、
鉄筋を減らしてコストを削減したなどという建物は潜在的には沢山ありそうです。
本来なら発覚しそうも無い事件が、内部告発で発覚した事に
「耐震強度偽装事件」の不可解さがあります。
そして、ひとしきり景気に水を差した後、
抜本的な解決もされないまま、何人かの犠牲者を出して事件は収束します。
「ライブドア事件」や「村上ファンド事件」も不可解です。
堀江被告が問われた罪は、本来なら微罪です。
それを、悪名高き「東京地検特捜部」が社会問題に仕立て上げました。
これらの事件の影響を考えた時、
その裏に働いていた「意思」を勘ぐらずにはいられません。
時期を同じくしてアメリカは「住宅バブル」に浮かれていました。
低金利の円が大量にエンキャリートレードで流入し、
サブプライム層という本来住宅を取得出来ない人達にも
ローンを融資するという異常な状況が発生していました。
しかし、もし日本の景気が上向けば、日銀は低金利政策を修正します。
それは、日本からの潤沢な資金で支えられていたアメリカの住宅バブルの終焉を招きます。
実際に、2007年のサブプライムショックの原因は
日銀に金利引き上げにあったと言われています。
私は「耐震強度偽装事件」と「ライブドア、村上ファンド事件」は、
日本の第三の敗戦では無いかと考えています。
但し、撤退戦の反抗作戦における敗戦といった程度でしょうか?
■ 萎縮した日本経済は、アメリカの財布となった ■
当時日銀の量的緩和の規模は35兆円であり、
これは明らかに効果を上げていました。
ところが二つの事件で日本経済は完全に萎縮します。
貯蓄志向が高まり、デフレが深刻化します。
企業収益は落ち込み、若者がリストラされる一方で、
年金を通して、資産が高齢者に集まるシステムが恒常化します。
老人達の預金は、日本国債を買い支えると同時に、
怪しい投資ファンドによって、アメリカのモゲージ債などに投資されます。
銀行なども、日本国内に資金需要が無いので海外に投資します。
円安で潤っていた輸出企業の株主は外国人に取って変わられていました。
彼らは、人件費の増額を拒み、設備投資を控え、
内部保留を膨らめました。
内部保留は運用益を求めて金融市場に投資されました。
こうして、第三の敗戦を味わう日本は、骨の髄までしゃぶられました。
そして、リーマンショックが発生します。
・・・現在の日本は骨と皮ばかりになりましたが、
増税によって、豚骨スープさながら、エキスまで吸い取られつつあります・・・。