■ 一人で出来るかな? ■
音楽の楽しみは、仲間と一緒の何かを作り出す楽しみです。
その一方で、ソロで黙々と孤高の領域に到達せんとする試みもあります。
キース・ジャレットのソロピアノのプロジェクトなどは後者の最たるものでしょう。
本日はそんなソロ音楽の最前線を紹介します。
題して「一人で出来るかな?」
さてトップバッターはアメリカのロックミュージシャン。
彼、Andrew Bird(アンドリュー・バード)はバイオリンを弾きます。
ロックバンドでバイオリンを導入した例は過去にもあります。
ベルベット・アンダーグランドのエレクトリック・ビオラも印象的でした。
しかし、Andrew Birdのバイオリンプレーは一味違います。
先ずはYoutubeの映像を見ていただきましょう。
おっとビックリだぁ!!
デジタル・サンプリングとディレーを用いて、
次々に色々なパートをサンプリングしつつ、
それをループして、さらにその上にサンプリングを積み上げています。
普通なら、ただのビックリ映像なのですが、
音楽のクォリティーが非常に高い。
先日、このブログで1本のギターを5人で演奏したものを紹介しましたが、
サンプラーを用いる事で、それを一人でやってのけます。
さらに、それぞれのパートの提示の仕方がとても素晴らしい。
ステージで、ミュージシャンが一人現れて演奏し始め、
次々に新しい奏者が表れてそれに加わって最後は一つの音楽になる・・
そんなイメージです。
まさに、「アート・ロック」の名にふさわしいミュージシャンです。
(何だかマジシャンの様でもありますが。)
Andrew Birdとの出会いはCDのジャケ買いでした。
インコちゃんの後ろ姿一発!!
こういうジャケットに弱いんです。
中身も素晴らしい。
ただ、普通に聞いていると最後の曲以外は
リアルタイムにオーバーダビングしながら演奏しているなんて事は分かりません。
だから、普通に良質なロックアルバムと思って聞いていました。
ところが、Youtubeの映像を見たらビクリだぁー!!
結構ロックミュージシャンとしてもカッコイイですよ。
そして、こんな拾い物も。
NYのソーホー辺りのカフェではこんな刺激的なセッションが
日々繰り返されているのでしょう。うらやましい。
■ チェロの概念を破壊するハンク・ロバーツ ■
2番手はHank Roberts(ハンク・ロバーツ)という人を紹介します。
画質は悪いですが、先ずはその驚きの演奏をご覧ください。
[[youtube:5-hPMknSlH8]]
フリージャズ系のミュージシャンですが、
現代の白人のフリージャズ系の人たちは、ジャズという枠には既に収まりません。
むしろフリー・ミュージックと呼称すべき音楽ジャンルの一員です。
私がHank Robertsを知ったのは「ミニアチュール」という
アルトサックス、チェロ、ドラムスという変則トリオのアルバムでした。
「ミニアチュール」はティム・バーンという現代最高の音楽家(アルトサックス)と、
その仲間のハンク・ロバーツとジョーイ・バロンによる奇跡的なトリオです。
それまでのフリージャズは既存の音楽のフォーマットを破壊する事に専念するあまり
エモーションを優先して構造的美学を欠いていました。
ティム・バーンとその周辺の音楽家達が、80年代の後半以降NYで試みた音楽は、
「綿密に構成されたノイズミュージック」でした。
これはジョン・ゾーンの一連の活動に触発されているのでしょうが、
ティム・バーンの音楽の特徴は、全体の構成の緻密さにあります。
例えばセクステッドの演奏であれば、
ソロ、デュオ、トリオ、カルテッド、クィンテッド、といった人数うの変化や、
あるいは組み合わせる楽器の種類によってバンドは多彩に変化します。
それらの楽器の組み合わせによて作られた「あるシーン」に、
次の楽器群がだんたと侵入してきて、気づけばそれが乗っ取られている・・・
そんな音楽の展開の仕方をします。
そして演奏スタイルも、完全なフリーフォームであたり、
ロックであったり、ブルースであったり、マーチングであったり、
まるでターンテーブル奏者、クリスチャン・マークレーの演奏を
生のバンドで再現しているような印象を受けます。
そして、それぞれの音楽の対比がとても印象的です。
混沌としたフリーフォームの演奏の彼方からドラムのリズムが忍び込んできて
気づけばバンド全体がユニゾンでテーマを力強く演奏している。
すると次の瞬間に、ノイジーなギターが全てを粉砕してしまう・・・。
こんな演奏が30分近い長尺でCDに録音されています。
普通なら飽きてしまうのですが、個々の演奏力の高さと、
綿密に計算された構成力によって、最後は恍惚の世界に連れ去られます。
(多分、一部の変態ファンだけだと思いますが)
話が大きく逸れましたが、ハンク・ロバーツはミニアチュールにおいて
変幻自在なチェロをプレーし、一人でありながら何人もの役割を果たしています。
彼のプレーの特徴はピックアップを取り付けたチェロを、
アルコ(弓)で弾くのは勿論の事、
ピチカート(指で弦を弾く)でまるでベースの様にチェロを操ります。
普通のチェロで、スラッピングベースの様な演奏までこなします。
さらに、ハーモナイザーやディレーなどを使い、
そしてボーカルまでこなします。
そして。そのボーカルが良い味を出すんです。
素朴なメロディーも魅力的です。
そんな彼の初期の映像がありました。
Black Pastelsという彼のリーダーグループですが、
ギターはビル・フリゼール、ドラムスはジョーイ・バロン、
アルトサックスはティム・バーン、トロンボーンの一人はフティーブ・スウェルでしょうか。
現在では実現不能な豪華メンバーです。
このBlack PastelsというCDで、私はビル・フリゼールを初めてスゴイと感じました。
それ以前に斑尾のニューポット・ジャズ・フェステバルで、
ベース・デザイアーズの演奏を見ているのですが、
その時は、変なギター程度の印象で、
専ら、ジョン・スコフィールドを見てました。
ティム・バーンやハンク・ロバーツのCDは
当時「JMT」というレーベルから発売されていました。
そのジャケットも前衛的で、かつてのジャズが持っていた熱気を
現代のジャズシーンで再現する、素晴らしいレーベルでしたが現在は無くなっています。
JMTの経営者だったウィンター兄弟はドイツでウィンター&ウィンターというレーベルを興し、
当時のCDの復刻と、当時シーンを賑わしたミューシシャン達の新作を発表しています。
凝った紙ジャケットの素晴らしいレーベルです。
こんなマイナーですが素晴らしいミューシャン達が、
90年代初頭に来日してコンサートを開いていました。
バブルのおかげ以外の何物でもありませんが、
彼らのほとんどを、東京で間近で見れた事は、良い思い出です。
■ ベースの限界を超越すると・・・あれベースの必要性があるの? ■
だんだんと「一人で出来るかな?」というテーマから外れてきましたね。
ここらで軌道を修正して、今度はベーシスト。
ベースという楽器は本来地味な楽器で、
バンドの血液として黙々とコードとリズムを支える役割のハズでした。
しかし目立ちたがり屋のべーシスト達が様々な奏法を編み出し、
現代のバンドにおいては、結構ベーストがギタリストより目立っていたりします。
意外とベーシストには目立ちがりやが多い様です。
ジャコ・パストリアス以降、ベースという楽器は全く別の楽器になりましたが、
ラリー・グラハムやブッチー・コリンズという超目立ちたがり屋の存在無くして、
現在のベースシーンは語れないでしょう。
さて、そんな現代ベースの到達点がこれ。
[[youtube:pYV-MS5WzJ0]]
スエーデンのベースプレーヤ、Jonas Hellborg(ジョナス・エルボーグ)です。
渋いですね。エレアコベース一発で、完全に音楽してます。
低弦でコードを演奏しながら、高弦で弾きまくってます。
フラメンコギターをベースでやればこんな感じでしょうか?
ジョナスはアップライト・ウッド・ベースという、
言わばアコースティックギターを大きくした楽器も弾きますが、
こちらは、本当に、低音のフラメンコです。
そんなジョナスにもこんなヤンチャな時代もありました。
ツインネックのベースもトレードマークでした。
でもこうなるとベースである必要性がどこまであるのか・・・ギターで良くねえ?
という事で、最近はエレアコでベースらしいプレーをしているのでしょう。
本日は「一人で出来るかな?」と題して、
現代の超絶技巧ミュージシャンを特集してみました。
彼らに共通している事は音楽性を追求する過程で、このスタイルに行き着いた事。
ですから彼らのアルバムは、ジャズのCDにありがちな、
技巧を前面に押し出したものでは無く、
豊な音楽性に溢れた音楽が記録されています。
特にハンク・ロバーツの作品は、心に響きます。