■ 100兆円と言われていたギリシャ国債のCDS残高が2千5百億円に? ■
ギリシャ国債のCDSは、ギリシャの国債発行残高の4倍程度、
100兆円もあると言われていました。
ギリシャの最大の武器が、ギリシャ国債デフォルトに伴うSDSの決済でいした。
この100兆円にも上るCDSの存在があるが故、
ギリシャはデフォルトをチラつかせて、EUから有利な条件を引き出せるはずでした。
ところが、100兆円というCDS残高自体が大きな誇張がある様で
下の記事によればギリシャ国債に掛けられていたCDSは3兆7千億円となります。
『人民の星』 5656号2面 2012年2月8日付
「ギリシャ 八方ふさがり 危機から抜け出せない欧州」
http://ww5.tiki.ne.jp/~people-hs/data/5656-2.html
<引用開始>
(前略)
ギリシャ国債をふくむギリシャへの貸し出しにたいするCDS発行額は四八五億㌦(約三兆七〇〇〇億円)で、そのうちアメリカの銀行が保証している分が三八四億㌦(約三兆円)となり、ギリシャ国債がデフォルトすれば、アメリカの銀行がふっとぶ関係にあるからである。CDSといった金融商品が開発されなければ、問題はもっとかんたんであったのだが、強欲なアメリカ金融資本はもうけのために事態を複雑に、金融全体を泥沼にひきずりこみ、みずからもおぼれようとしているのである。
(後略)
この事に関しては私も大いに反省すべきで、
下記の様な情報を鵜呑みにしてネットに拡散させた責任を感じます。
<引用開始>
東海東京証券チーフエコノミストの斎藤満氏が言う。
「ギリシャ国債の発行残高は3500億ドル(約27兆円)ほどです。しかし、これに対するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は、その4倍になるとみられている。多くの金融機関が、ギリシャ国債の購入に際し、総額100兆円超の保険を掛けてリスクヘッジしているわけです。つまり、ギリシャの債務不履行で問題となるのは、表に出ている数字の4倍ということになる。その支払いを迫られる金融機関は甚大な打撃を受けます。
<引用終わり>
ただ、CDSの問題がネックでギリシャ問題が進展していなかったのに、
そのCDSの発行残高が3兆7千億円(グロス)しか無い事は疑問にも感じます。
CDSは簿外扱いで貸借対象表に記載されていないので、
CDSの発行残高は把握し難いという指摘があります。
「ギリシャのCDSの支払で世界経済は大変な事になる」と言われたのに
その額が3兆7千億円と聞くと、ちょっとキツネに摘ままれた気分になります。
ところが、先日からの報道で、ギリシャ国債のSCD残高は、
たったの32億ドル(2500億円)程度だと言われています。
この32億ドルという情報の出所は米証券保管振替機関(DTCC)です。
「株の学校」というブログに少し詳しく載っています。
「ギリシャ国債、イタリア国債のCDS残高[ネット] 2012年1月
http://www.kabu-gakkou.com/2012/01/cds.html
<引用開始>
(表:「株の学校」より)
(前略)
全体の残高(想定元本)はネットの5倍~10倍の規模なので、こちらだけ見るとものすごい影響が出るように思われますが、実際の資金移動の可能性を表すネットの残高を見ると、思った以上にその規模は小さいです。
デフォルトが発生した場合、CDSの買い手は、売り手から、デフォルト時に発生した損失に相当する金額を受け取ることになるので、実際の資金移動は、ネット残高に「1-清算価値[%]」を賭けた金額になります。
CDS買い→+CDS支払い額
CDS売り→-CDS支払い額
⇒同額のCDS買いとCDS売りを持ってる→支払いゼロ
⇒実際の資金移動=ネット残高×(1-清算価値[%])
<引用終わり>
■ 「CDSの解け合い」で消失したギリシャ国債のCDS ■
100兆円のCDS残高は大げさだとしても、
少なくとも3兆7千億円のギリシャ国債のCDSが
本当に2500億円に圧縮されるのかも不思議です。
「株の学校」の説を信用するならば・・・
1) A銀行が発行したギリシャ国債のCDSをB銀行が1千億円所有する
2) B銀行が発行したギリシャ国債のCDSをA銀行が1千億円所有する
3) お互いのCDSを詳細すると、2千億円のCDSが消滅する
本当にこんなに都合良く、あっちの銀行もこっちの銀行も
ギリシャ国債のCDSを発行しまくっていたのでしょうか?
■ CDSの権利を放棄させたのでは無いか? ■
私は疑り深いので、上の様な方法でCDSが消えたとは考えられません。
1) CDSの決済が発生すれば世界的な金融危機に発展する
2) 各金融機関とも世界経済の崩壊は望まない
3) 各金融機関がギリシャのCDSに実際に払った金額は、実際にはそれ程多くない
(償還期限を多く残す国債のCDS程、実際の支払額は小さい)
4) EUが金融機関にCDSの権利放棄を強要したのではないか
5) CDOにバラバラに含まれるCDSに関しては、どうせ追跡出来ないのでカウントしない
6) 「強制的債務再編」によってCDSの支払義務が生じるのは
債権の減少を拒んだ一部ヘッジファンド勢のみ。
このCDSのみを「残高」とカウントすれば、さらにCDSの残高は圧縮できる
ちょっと強引にも思えますが、
ギリシャがユーロ離脱、デフォルトをチラつかせて
金融機関の危機感を煽れば、「崩壊か生き残りか」の選択において、
「CDSの権利放棄」による生き残りの選択の方が合理的決断になります。
EUとしては、法律改正などでCDSを無力化する事も出来たのでしょうが、
それをすると、債権市場のリスクヘッジが無くなり債権市場が崩壊しますから、
裏でCDSの権利放棄を進めたのではないかと私は妄想します。
■ 放射線の如く水増しされた恐怖故に「金融核兵器」? ■
CDSによるパニックの増幅な無ければ、
ギリシャの債務残高は世界がその気になれば大した金額ではありません。
緊縮財政下でギリシャ経済は好転する事はありませんが、
「生かさず殺さず」で、市場の不安定要因であり続ける事は可能です。
ギリシャの次にはポルトガルが控えていますが、
ギリシャのCDS処理が上手くいけば、
同じスキームでCDSを消し去る事は可能です。
ただ、私の中ではギリシャのCDS発行残高の数値は
どうも釈然としないのです・・・。
たったこれだけに金額を世界は「金融核兵器」と恐れていたのでしょうか?
まるで放射線の恐怖が如き「過剰評価」ですが、
だからこそ「金融核兵器」なのでしょうか?
ギリシャ問題はCDSの信用性を失わせる可能性もあります。
フィナンシャルタイムスの記事は注目に値します。
「[FT]ギリシャ債務減免で浮上したCDSの限界」 2012.02.18
http://www.nikkei.com/biz/world/article/g=96958A9C9381959FE3EAE2E7858DE3EAE3E3E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;p=9694E3E7E2E0E0E2E3E2E6E1E0E2
いずれにしても、色々と腑に落ちないギリシャ問題です。
私は元来ギリシャ問題はユーロの財政統合の道具である派ですが、
それにしてもヨーロッパのしたたかさには、背筋が寒くなる思いです。