『ただ、君を愛してる』の新城毅彦監督の第2作である。前作に続いて主人公は死んでいく。ここには、愛する人が死んでいくことをただ見つめることしか出来ない無力さが、根底にある。
そのことに対して主人公たちは何の抵抗もしない。諦めているわけではない。しかし、その運命に抗ったとしても変えることは不可能なのだ。あらかじめ決められていたのならば、受け入れるしかない。受け入れた上で、どう生き、そして死んでい . . . 本文を読む
これをつまらない映画だと言うつもりはないが、衝撃的な事実だと、思ったりもしない。このくらいのことは、この世界では充分起きているだろうと想像はつく。僕らは既に悪夢に対して悲しいかな、それくらいの免疫が出来てしまっているのだ。
ビクトリア湖に巨大魚が発生して、それが異常繁殖することで、それまでは200種程いた魚は絶滅し、生態系を崩してしまう。しかし、そんな魚の輸出によって現地の人々は潤う。もちろ . . . 本文を読む
前半はドキュメンタリータッチで認知症を患った老人たちの生活を追いかけていく。この重い話を客観的な描写で淡々と見せていく。しかし、後半は一転して、ファンタジーのようになっていく。33年前に死んでしまった妻の墓を捜すため、認知症の老人と、子どもを亡くしたばかりの若い介護士が、森の中を旅する。この2人だけの話になる。
この後半部分、2人が鬱蒼たる森の中をどんどん行くシーンを見ていて、最初は日常の延 . . . 本文を読む
東京の下町にある昔ながらの古本屋、東京バンドワゴン。「築70年にもなる今にも崩れ落ちそうな日本家屋」のその店を舞台にして、3世代が同居する大家族堀田家と、その周辺の人たちが繰り広げる1年間の大騒動を4つのエピソードとして綴っていくホームドラマ。
76歳で死んでしまった一家を陰で支えた中心的人物サチおばあさんの語りによって、彼女の夫で3代目店主、勘一以下総勢9名に及ぶ家族と、ここに出入りする人 . . . 本文を読む
2時間強は長いけど、このくらいやらなくては気がすまなかったのだろう。作、演出の金哲義くんの気持ちがしっかり伝わってくる作品だった。思いのたけを余すところなく全てぶちまけて、もうこれ以上どこをどう叩いても何も出てきません、とでも言いそうな勢いなのだ。そんな余裕のなさも含めて、その精一杯の全力投球が見ていて気持ちいい。
子供っぽい芝居だが、それの何が悪いのか、と居直って見せるのがいい。自分のやり . . . 本文を読む
前半はなかなか面白かった。10年間誰も足を踏み入れたことのない鎖国下の日本に潜入して、そこにあっと驚く風景を見てしまう、というところまでは、ドキドキする。しかし、そこまでだ。それから先は全くつまらなくなり、ラストに至っては、ただの勧善懲悪かよ、というくらいに低レベルな映画になってしまい、がっかりである。
しかも、「お前は『トランスフォーマー』か!」と怒鳴りたくなるくらいのいつまでも続く戦闘シ . . . 本文を読む
小林正樹の傑作『怪談』は3時間に及ぶ超大作である。恐ろしいだけでなく、美しくも哀しい愛の物語でもある。中田秀夫が『怪談』を撮ると聞いた時、ラフガディォ・ハーンの原作からいったいどのエピソードを撮るつもりなのか、興味津々だった。なのに、これは八雲の原作ではなく、円朝の落語『真景累ヶ淵』の映画化だったのだ。この思い切ったタイトルのもと何度も映画化されたこの話を従来の映画化とは違い、後半部分も含めての . . . 本文を読む
ようやく見ることができた。何より早く見たかったのに、いつまでも見れないまま今日と言う日を迎えた。待ちに待った久々のデビット・リンチ最新作である。
まだ、十代だった頃、大学の帰りにいつものように、河原町周辺で映画を見た。あの頃は毎週1度は一乗寺の京一会館に行き、3本立(ポルノの時は、なんと4本立だった)を見て、週に2,3度はロードショーや名画座に入って過ごしていた。大学に行っていたというよりも . . . 本文を読む
これはとてもよく出来た映画だ。なんだかよく解らないまま、とても小さな作品世界に引き込まれていき、たった数人で完結する世界の不思議な絆の中で翻弄されていく。
お話のトリックがよく出来ているだけでなく、主人公達の内面世界も、しっかり描き込まれているから、仕掛けで見せるだけでなく、切ない人間ドラマとしても成功している。そんなことは当たり前のことかも知れないが、それってなかなか難しく、うまくいってい . . . 本文を読む
東映恒例の『ライダー+戦隊もの』の2本立を今年も見に行ってしまった。もちろんなんの期待もしていないけど、ついつい見にいってしまう。昔このシリーズで雨宮慶太監督が『人造人間ハカイダー』という傑作を作ったことがあったが、時々この枠で隠れた傑作が生まれることがある。それが忘れられないから、見てしまうのだ。でも、最近はあまり期待できない。
今回の新作は、ちょっとふざけた設定が気になっていた。弱さを売 . . . 本文を読む
予想を遥かに超える出来で、とても嬉しい。室賀厚にこういう青春ものが出来るのか、とかなり心配していたのだが、とりあえずは合格だろう。もちろんつくり方はかなり緩く、ストーリー展開にも無理がありすぎだし、ご都合主義の安易な構成にも呆れる。もう少し丁寧にリアリティーを感じさせる描写をしたらいいのにと、見ながら何度も思った。だけど、ドラマの核心の部分はしっかり守られているから、この映画を否定する気にはなら . . . 本文を読む
正直言ってこれには参った。戒田さんらしい作品なのだが、そのあまりの真直ぐさが、作品の力になりきれていない。象徴的なドラマのひとつひとつはとても興味深く、それらがひとつに重なっていくこともなく、別々の方向を向いたまま、この1本の作品の中に混在しているというのも、作者の意図どおりなのだから、問題はない。しかし、それが作品の力になっていかないところが、痛い。
目標となるものがなにもないただ広いばか . . . 本文を読む
どこにもない架空の田舎町を舞台にして、その町に父の仕事のためにやってきた少年と町の子供たちのふれあいを描く行定勲監督のファンタジー。彼の心の中にある夢の世界を優しいタッチで映像化した極私的な映画。
このプライベートフィルムはあまりに独りよがりで、こんなわがままを映画にして許されるものなのか、なんて思うほどだ。だが、どうしてもこれをやりたいんだという彼の願いが、この奇跡の映画を産んだ、と考える . . . 本文を読む
今から11年前、南船北馬一団のデビュー作『よりみちより』を見た時の衝撃は忘れられない。どうしてこんなに老成した作品を20代になったばかりの作者に作れてしまうのだろうか、と驚かされた。こんなにも回顧的な物語を想像によって作り上げたこと。だいたいそんな題材を選ぶという時点で不思議に思わざるえなかった。
同窓会の後、自分たちが過ごした高校の部室に忍び込み、かってここで過ごした日々を振り返りながら、 . . . 本文を読む
「ありがと」という言葉が何度となく繰り返される。広島弁の優しい響きが胸の奥にしっかりと落ちていく。心の中に染み渡っていくのだ。
広島に原爆が落とされて、13年。まだまだ戦争の傷痕を引き摺っていた時代。それでも、毎日を精一杯生きていた人たちの涙が出るほど慎ましくひたむきな姿が美しい。実はずっと泣いていた。何を訴えかけるでもなく、ただ平穏に、その日その日を生きている人たちのその姿が、どうしてこん . . . 本文を読む