デンマークの映画だ。(スウェーデン・フィランドとの合作だけど)「アクションもの」で、「復讐もの」というよくあるパターンだ。なんだかとても地味そうな映画。わざわざ劇場で公開するほどのものなのか、とも思う。でも、本国ではその年のナンバーワン・大ヒットとなった作品らしい。なんとなく、心惹かれて、しかも、時間がちょうど合ったので、たまたま急遽思いつきで見ることにした。
不思議な映画だ。最初はあたりだな、 . . . 本文を読む
青山美智子の新刊だ。先日ようやく読んだ本屋大賞第2位に輝いた『落し物は図書室まで』が少し残念な出来だったので、あまり期待してなかったけど、ほんの少し新境地に挑戦していて、なかなかいい作品でホッとした。別に僕がホッとする必要はないのだろうけど、好きな作家が前進していく姿を追えるのはうれしいではないか。
もしかしたらこれは彼女の初めての本格長編小説か、と読み始めた時には期待したが、第2章で主人公が変 . . . 本文を読む
『パラソルでパラシュート』に続いて漫才師を描く小説を読んだ。まぁ、たまたまだけど。しかも、今回は昔懐かしのスポ・コンものだ。一穂ミチは正面から漫才を描いたわけではなく、たまたま出会った男が芸人で漫才をしていたことで業界の人たちとも知り合うことになり、知らない世界へ迷い込む女性を描いたが、こちらはふたりの漫才師(別々の相方を持つ先輩後輩であり、ライバル関係でもある)と、構成作家を目指す女の子の3人の . . . 本文を読む
2013年公開作品だ。自主映画として撮られた。150万の予算だったらしい。でも、大胆で凄い映画だ。こういう映画がひっそりと作られている。そしてそれなりにちゃんと評価されている。(ぴあFFで入賞している)日本映画の裾野も広い。
これは毒だらけの映画だ。見ていて気分が悪くなる。だけど、これは誰もが考えなかった展開だ。奇抜だというわけではない。それどころかお話自体はよくある設定だ。だけど、キャラクター . . . 本文を読む
定年退職したばかりの小学校の教師が、定年後どう生きるかを描く小説みたいなので、自分の今と完全にシンクロするから、興味津々で読み始めたのだが、思ったような小説ではなく、前半は少し期待外れだった。だけど、これはそんな小さなことを描くつまらない小説ではなく、もっと大きなことを描こうとした作品なのだ、と気づく。個人的な感慨ではなく、自分が世界とどう向き合うのかを小さな個人的な問題から描こうとした。
確か . . . 本文を読む
ジョージ・クルーニー監督の新作である。今回も本人は出演しないで監督に専念している。主人公はひとりの少年。彼と母親の物語。少年が幼いころに父は出奔している。父親はフリーのDJで一切家庭なんか顧みず好き勝手して生きている。母は幼い息子を連れて実家に戻ってくるところから映画は始まる。だけど、悲惨な話でもない。悲壮感もない。とても明るい。でも、無邪気でノーテンキな明るさではない。映画のタイトル順ではベン・ . . . 本文を読む
雨の音がする。かなり激しく。でも、スクリーンは穏やかで静かだ。緑が美しい。男性が倒れる。「先生!」と女性が駆け寄る。冒頭の描写がこの映画の方向性を明確に示唆する。多くは語らない。いや、ほとんで語らない。スクリーンに映っている風景を、人々の姿を、ただ静かに眺めるだけでいい。彼らの交わすことばのやり取りは淡くてさりげない。
図書館で臨時職員として働く彼女と、翻訳の仕事をしている韓国人の彼。ふたりはこ . . . 本文を読む
リドリー・スコットの最新作である。昨年の『最後の決闘裁判』に続き、もう新作が登場してくる。高齢(84歳)なのに続々と精力的に映画を作り続けるのは凄い。しかも、いずれも製作も兼ねて、手が掛かる大作仕様の映画ばかりだ。それだけではなくさまざまなジャンルの作品を手掛けるし。彼はいくつになってもありとあらゆるものへの興味関心を失わないだろう。
今回はグッチの一族のお話である。ただ、今回は少し残念だった。 . . . 本文を読む
いつも挑発的な小説を連打してくる羽田圭介の新作は究極のミニマム生活。とことん物を捨てる。その果てには何があるのか。タイトルが『滅私』ではなく『滅死」というところが示唆するものが答えなのだが、終盤でゴミ屋敷と化した空間で心安らぐところから、正反対が結局同じところに行きつくのか、と思わせて、もちろんそんな単純なことではないのも自明のことで、私を失くすことで死を迎える。断捨離を推奨するのではない。ものへ . . . 本文を読む
『明け方の若者たち』の松本花奈監督の前作。TVドラマシリーズの1話から3話までを編集して作った劇場版。ドラマより先行する映画なのに、素材はドラマのままというのは珍しい。これではただのTVの宣伝でしかない。でも、作品自体はとてもよく出来ている。ここには映画だからという気取りはない。さりげなく高校生たちの日常が描かれる。
大概な設定だし、突っ込みどころは満載だしあり得ないのだけど、それでもそれをさら . . . 本文を読む
前作『去年の雪』での試みを引き継ぎ、今回も短いエピソードの連鎖で長編小説を紡いでいく。ただし今回は前回のように登場人物が100人とかいう規模ではない。それに一貫したお話も一応はある。
3人の80代に突入した老人たちが一緒に命を絶った。彼らは昔の仕事仲間で、仲のよい友人同士。別々の家庭を持った後もずっと親友として、付き合いは続いていた。ふたりの男性とひとりの女性なのにそこには恋愛関係はない。大晦日 . . . 本文を読む
ふたり合わせて118歳。だからチーム118。老人に限りなく近いおっさんふたりによるお芝居。これは楽しい。ひとりは昨年定年退職した高校教師。もうひとりは有名な劇作家であり演出家。そんなふたりが高校演劇の台本に挑み、女子高生を演じる。それだけ聞くと、これはえぐいわ、と思う(はず)。だけど、これがまぁ、とてもチャーミングで楽しい。
玉村徹と鈴江俊郎。台本は昨年3月まで顧問をしていた(そして今もコーチと . . . 本文を読む
イーストウッドの最新作。91歳で監督主演を果たす。ふつうならもう信じられない話なのに、彼なら当たり前か、とも思える。今回は、幾分、甘い映画だ。だけど、それすら余裕だから、と思える。作品の完成度の高さとか、どうでもいい。自分がやりたいことをやりたいようにやっている。巨匠の仕事、とか、最後のメッセージとか、あまり考えていない。(たぶんこれが最後じゃないし。)
悲壮感なんてない。90を越えて、まだ恋を . . . 本文を読む
30年振りに訪れたベトナムは自分の知っているベトナムではなかった。近代化が進みあの頃の面影はどこにもない。サイゴンではなくハノイならまだ昔の風景が残っているよ、と言われるが、それでも自分が知っている場所ではもうない。ボート難民としてこの国を出た。家族でイギリスに逃れた。6歳の時だった。あれから一度も戻ることはなかった。30年振りで訪れたのは両親が亡くなったからだ。彼らの遺骨を散骨するためにやってき . . . 本文を読む
デンゼル・ワシントン主演の刑事アクション映画なら今までもたくさんあったし、傑作も多い。だけど、今回久々の映画は今までの作品とは少し肌触りが違う。彼が演じるのはなんと初老の警察官だ。老け役を演じたのではなく、もう老けてしまったから、実年齢に相応しい役を演じたのだろう。この映画、日本ではなんと劇場公開されていない。配信で公開されている。今までならあり得ない扱いだ。でも、劇場公開してもヒットは難しいのだ . . . 本文を読む