今、五木寛之の恋愛小説【凍河】を読みはじめました。
バイクで走りたいのだけれど、蒸し暑さの中を我慢しながら汗びっしょりになって走るのは、楽しくないし。
で、エアコンをガンガン効かせたリビングで、小説を読んでいます。
【さらばモスクワ愚連隊】に出会ってから、この作家の作品が好きになったのだけど、このところあまり作品を読んでいなかったんです。
この中に、古い英国製のオートバイBSA ゴールドスターに乗る若い精神科医のくだりがあります。
今だと、かろうじてトライアンフやインディアンは知っていたとしても、BSAとかブラフ・シューペリアとかになると、知らない若者が多いのでしょうね。
-------引用--------
ぼくはアパートの外においてある単車を、しばらく押して坂の下まで行った。
静かな住宅街には、この歴史的中古オートバイの爆音はふさわしくないと思ったのだ。
なにしろ車齢何十年になんなんとする老兵だから、キック一発でかかることもあれば、えらく機嫌の悪いときもある。
「いまなにに乗ってる?」
「BSA」
「へぇ。ビクターか」
「いや、ゴールドスターの古いやつ」
「好きだな。やっぱり単コロが面白いかい」
「うん、ドッドッドッって持って行く感じがね」
「ゴールドスターはB34ってのがいいんだぞ」
ぼくはまだ暖かみののこっている単気筒のエンジンを、キック一発で始動させた。
「いい調子じゃないか」
・・・ 略 ・・・
ぼくはゆっくりと走り出した。
いかにも馬力のある働きものといった感じで、エンジンの突き上げるような上下動がトコトコ尻につたわってくる。
「めずらしいオートバイですな」
「どうも」
「BSAは昔、わたしも乗ったことがあります。 ハルピンで英国人の貿易商がもっておったのを借りましてね」
「オートバイにお乗りになるんですか」
ぼくはすっかりうれししくなって、このぱっとしない小柄な老人がたちまち好きになってしまった。
「昔のことですよ。まだ二十代の若い時代でした。 〈陸王〉とか〈インディアン〉などというのが幅をきかせておった頃ですから」
自分が小さいころ、砂利道を走って行くバイクを思い出します(^_^;)