そして二人はその扉をあけようとしますと、上に黄いろな字でかう書いてありました。
「当軒は注文の多い料理店ですからどうぞそこはご承知ください」
☆字を任(見分けると)秘(人に見せないように隠している)章の講(話)がある。
辞(言葉)は諸(もろもろ)道(神仏の教え)を兼ねている。
衷(心の中)の問いは霊(死者の魂)の裏(内側)を展(広げる)章(文章)の質(内容)である。
それでいて、あなたは、いろんな要求をお出しになる。これっぽっちの後楯もないのに、要求をお出しになる。あからさまにお出しになるのではないけれども、あなたが何かを要求していらっしゃるということは、すぐにわかります。それが、世間の人たちの恨みをまねくのです。
☆その上、要求を出します。支援もないのに要求を出される。全く何もないのに、一体なぜでしょう。いかなる要求も挑発的だと思うのです。
葡萄垂れよ天上をゆく強き櫂
葡萄垂れよ、命令形あるいは強い希望(祈り)である。
かの人の功績は偉大である。きっと大きく熟しているのを知るだろう、知るはずである。死してさえ、なお力強く櫂をこぎ、天上をゆくに違いない!
葡萄垂れよはホ・ドウ・スイと読んで、保、堂、誰。
天上をゆく(天上行)はテン・ショウ・コウと読んで、典、衝、構。
強き櫂はキョウ・トウと読んで、教、謄。
☆保(守る・持ち続ける)お堂(神仏を祀る建物)は、誰かが典(書物・規範となるもの)で、衝(重要な)構(組み立て・仕組み)を教え、謄(書き写さねばならない)。
葡萄垂れよはブ・トウ・スイと読んで、部、問、推。
天上をゆく(天上行)はテン・ショウ・コウと読んで、転、章、衡。
強き櫂はキョウ・トウと読んで、協、統。
☆部(区分け)を問い、推しはかる。
転(移りかわる)章(文章)の衡(つりあい)を協(あわせ)統(一筋にまとめる)。
軽暖や写楽十枚ずいと見て
ようやく暖かくなってきた頃である。「さあ、やるぞ!」の高揚、写楽の絵にはそういう気迫が感じられる。モデルは知られざる名優・大谷鬼次など、この一瞬に賭ける気合、ふだん目立たない役者のこの一場面、緊迫の一瞬に『ずい』とこみ上げる共感を抱く。
軽暖はケイ・ダンと読んで、計、談。
写楽はシャ・ラクと読んで、写、絡。
十枚はジユウ・マイと読んで、自由、毎。
見てはゲンと読んで、現。
☆計(もくろむ)談(話)を写(書き写す)。
絡(筋道)は、自由で、毎(そのたびに)現れる。
軽暖はケイ・ダンと読んで、系、断。
写楽はシャ・ガクと読んで、奢、愕。
十枚はトウ・マイと読んで、当、毎。
見てはゲンと読んで、嫌。
☆系(つながり/付き合い)を断つ。
奢(分を越した贅沢)に愕(驚く)。
当(その)毎(たび)に嫌う。
『不穏な天気』
不穏というから何かの予兆だと感じるが、波の静かないい天気である。ただ違っているのは白い雲であるはずの位置に、白い物体が三体並んでいることである。
トルソは乳房から見ると女であるが、腕のつけ根や肩の線から見ると男である。つまり、差異を含んだ人間ということかも知れない。
チューバ(吹奏楽器)は、音を増幅させる発信源である。
椅子は、普通に考えると地位を象徴する。
これらが平穏な地上に浮上して見えている景色を『不穏な天気』と名付けている。
穏やかな景色を否定する空気が顕在しているという。美しくさえ見えるこの三体、人は描かれていないが較べるまでもなく巨大である。椅子やチューバがただ在るだけでなく人が介在する景色。
魅了されるような眺めであるが、その意味を検討すると、上からの圧力であり鳴り響く音響であり、人が隠されている。大いなる権力の爆走を予感させる静けさは否定できない。ありのままの景色を人的圧力で、制圧する。
『不穏な天気』はあくまで予兆にすぎない。しかし・・・。
写真は『マグリット』展・図録より
「どうも変な家だ。どうしてこんなにたくさん戸があるのだらう。」
「これはロシア式だ。寒いとこや山の中はみんなかうさ。」
☆返(元へ戻る)也。
図りごとの私記である。
換(入れ替えて)算(見当をつけ)注(書き記す)。
だって、あなたは、まったく何者でもない。一文の値うちもない、まるっきりの無なのよ。あなたは、測量師でいらっしゃる。これはあるいはひとかどのことかもしれないわね。つまり、あなたは、ひとかどのことを習って身につけていらっしゃるわけね。でも、それでもってなにもすることができなければ、やっぱりまるっきりの無だわ。
☆それにもかかわらず、よく見たところで、悲しいかな、あなたは何でもない。あなたは測量師(土地がないことに気づいた人)です。ひょっとしたら、あなたは習得を収めているかもしれませんが、何かをするのでなければ、やっぱり無意味です。
山墓に焚く迎火に行きあはす
山墓、私有地に建てられたお墓で家人が迎火を焚いている光景に遭遇した。
山墓はサン・ボと読んで、惨、暮。
焚く迎火はフン・ゲイ・カと読んで、憤、睨、果。
行きあはす(行合)はコウ・ゴウと読んで、恒、傲。
☆惨めな暮らしに憤(いきどおる)。
睨(横目でにらむ)果(結末)。
恒(変わらない)傲(奢り高ぶり)。
山墓はサン・ボと読んで、三、募。
焚く迎火はフン・ゲイ・カと読んで、粉、芸、荷。
行きあわす(行合)はコウ・ゴウと読んで、講、合。
☆三つを募る粉(入り混じって区別がつかない)芸(わざ)を荷(にない)、講(話)を合わせている。
猫鳴いてお多福風邪が奥にゐる
猫が鳴いたので、そちら(奥)を見るとお多福風邪の患者が猫といっしょに臥せっている。
猫鳴いてはビョウ・メイと読んで、平、明。
お多福風邪はタ・フク・フと読んで、汰、複、附。
奥にゐる(奥居)ハオウ・キョと読んで、応、挙。
☆平(偏らないで)明(はっきりさせ)汰(えらびわける)。
復(二つ以上)を附(添える)。
応(ほかのものと釣り合うように)挙(企てる)。
猫鳴いてはビョウ・メイと読んで、病、瞑。
お多福風邪はタ・フク・フ・ジャと読んで、誰、副、夫、邪。
奥にゐる(奥居)はオウ・キョと読んで、往、去。
☆病(病気になって)瞑(目を閉じていると)、誰かが副(付き添っているようだ)。
夫だろうか、邪(否)、往(亡くなって)去(他所へ行ってしまった)。
漆黒の闇、風景は日中ではない。
星月もない深夜に散歩をするだろうか。集合住宅には一つの灯りも見えない。
寝静まっているのか廃墟なのかは不明であるが、人の気配がなく、ただ人がいるであろう建屋の林立があるのみである。活気や主義主張が打ち沈んでおり、未来を拓く恋人たちを迎える気配を感じない。
『恋人たちの散歩道』は立ちはだかる閉塞感がある。何しろ無言、沈黙している不気味さが恋人たちの未来予想(フレームの時空)を妨げている。
道というものは、通り抜けられるものであるが、ここでは塞がれている。地表は描かれていないので、左右や背後にはあるのかもしれない、という憶測、楽観は否めないが、タイトルに道とあれば、主題である道が隠れているのはおかしい。道はまっぐ正視すべき方向を指し、明らかに障害である建屋(世間)を突き抜けるべく道を示唆しているのである。
状況(世界)は平然と存在している。恋人たち(未来を拓く人たち)へのさりげない忠言である。
写真は『マグリット』展・図録より