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細川正義氏大いに語る
江嵜企画代表・Ken
作家と読者が交流する第41回よみうり読書サロンが6月14日(水)、芦屋ルナホールで午後2時から開かれた。5月20日付けの読売新聞朝刊に掲載された書下ろし掌編小説「左オーライ」を書いた作家、宮下奈都さん(50)がこの日のゲストである。会場の様子をいつものようにスケッチした。
聞き手,同紙、文化部、中井道子さんが「芦屋は初めてですか」と聞いた。「学生時代、芦屋の友達に呼ばれて初めて来ました。きれいな街並みの素敵な街だな。また来たいとその時思った。それから30年経ちました。今回2度目です。やはり昔のままのきれいな素敵な街でした。」と宮下奈都さんは笑顔で話し始めた。
「1967年、福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業、2004年「静かな雨」で文学界新人賞佳作に入選。16年「羊と鋼の森」で本屋大賞受賞で一躍話題を集められた」と司会者がかいつまんで紹介した。
400字詰め原稿用紙9枚の掌編小説のタイトルは「左オーライ」。10年前に起こした交通事故に巻き込まれ、心の傷をもち続けた主人公の女性が、夫と向き合い、トラウマを克服する物語である。家族に見守られながら、過去を新たな目で見事にとらえ直した。
掌編小説「左オーライ」の物語の始まりはこうだ。「香ちゃんという友だちを補助席に乗せた車は、T字路に差し掛かった。前方を次々通過する車をやり過ごしていた。ちょうどその時、車が途切れた。香ちゃんは「左オーライ」と言った。私はアクセルを踏んだ。左からトラックが来ていた。香ちゃんは左腕と左足を骨折、入院することになった。大の仲良しだった香ちゃんとは事故を境に断絶した。
10年経ったある日舞台は一転する。ミニカーで遊んでいた3歳の息子がバスと乗用車をコツンとぶつけたときだ。「やめて」「車、ぶつけないで」息子は黙ってうなづいた。10年前の事故の出来事が突如頭に出て来た。「ベランダで洗濯物を干していた夫が「どうかしたの」「どうもしない」「そうか」とのやり取りのあと「むかし運転してた車が事故を起こして」。気が付いたら夫に話し始めていた。「それからずっと車がこわいの。だからミニカーをぶつけないで、って言っちゃった」と話した。
「オーライじゃないのに、どうして彼女はオーライと言ったのか。なのに彼女は謝らない。それがトラウマになった。夫は「事故のショックが大きくて、たぶん彼女は左オーライを覚えていないんだよ。もし覚えていたら彼女きっと謝っていたと思うよ。」と話した。夫がまじめな顔でそう言ったとき、ふわっと靄が晴れていくのを感じた」と小説は進む。
夫は「僕が失業したとき、君は、いつもと変わらないでいてくれたよね。ぼくは、ぜんぜん大丈夫でなかった。でも君が働いていて、子供も元気、僕も元気。君は普段はオーライとはいわない。その君が笑っていてくれるから、僕もオーライって信じられた。私たちはきっと大丈夫なんだ」で掌編小説「左オーライ」は終わる。
宮下さんは「女子総合職一期生の時に就職した。会社では出来ると思っていたことがほとんど出来ないことが分かった。」と話した。「作家になられるきっかけは」と司会者が聞いた。宮下さんは「3人目の赤ちゃんがおなかに宿りました。その時作家になれると感じたのです。」と話した。その時書いた「羊と鋼の森」で本屋大賞を受賞した。宮下さんは「毎日小説を書いていて、楽しくて、楽しくて、たまらなく楽しい。好きなものを書かせてもらっている自分は本当に幸せです。今日のようなお客様に恵まれて幸せです。」と言って話を終えられた。(了)