画・江嵜 健一郎
第3回 西宮・伝統芸能の夕べ 狂言『夷毘沙門』が8月10日(木)午後6時半から西宮神社,拝殿前特設舞台で開かれ楽しみに出かけた。いつものように開演前の時間を活かして会場の様子を描き込みあと舞台に集中した。
第1部はトークショー。野村萬斎(能楽師狂言方)、吉井良昭(西宮神社宮司)、石井登志郎(西宮市長)が登壇。梅若基徳(能楽師シテ方)が聞き手となった。石井市長は「西宮市は補助金を出して文化事業にも力を入れている。」と冒頭挨拶した。
吉井宮司は「コロナ禍で抜けた期間はあったが、令和二年の第1回は「能」、第2回は「文楽」、第3回の今回は「狂言」。演題は「柿山伏」と西宮神社ゆかりの「夷毘沙門」が選ばれた。私見だが「夷毘沙門」は二人で一人の人間。一人の人間が裏表となっている。いま一つは夷(えびす)は海の神様である。山の神様、武の神様の毘沙門は共に七福神に入っている。二人の神様が人間の娘の婿を争う物語となっている。」と話した。
野村萬斎さんは「吉井宮司様のお話を興味深く拝聴させていただいた。最初の演題の「柿山伏」は小学校6年の教科書にも紹介されている。狂言は全て「このあたりのものでござる」ではじまる。フラットな関係が狂言の姿である。まことに人間らしい。笛、小鼓、太鼓もお楽しみ願えたらありがたい。」と話した。
「柿山伏」はシテ(山伏)、野村太一郎、アド(柿主)内藤連、後見、飯田豪。修行の帰りで空腹になって柿の木に登った山伏を柿主が見つける。柿主はカラスがいると声をかける。山伏はカラスの鳴きまねをする。次にサルだという。山伏はサルの声を出して逃れようとする。次に柿主は「鳶(トビ)だとはやす。」。山伏はつい飛び出してしまう。転落して起き上がれなくなる。山伏と柿主のやり取りを堪能した。
「夷毘沙門」はシテ(夷)、野村萬斎、アド(有徳人)、高野和憲、小アド(毘沙門)、野村祐基、後見、深田博治。人間の娘の婿を望んで夷と毘沙門が争う話である。有徳人が娘に良い婿を得られるように立札を出す。自身が婿になると夷と毘沙門がやってくる。お互い自分の由緒を語る。相手の悪口を述べる。夷は釣り針を掲げる。毘沙門は鉾を振り回す。有徳人は宝物を与える。婿争いを忘れて姿を消す物語である。
開場の午後6時にはまだ青空が見えた。第一部が終わり15分の休憩のあと第二部がはじまるころには暗くなり午後8時前のお開きころは暗闇のなかに拝殿が輝いていた。夷と毘沙門と後見、お囃子の4人を描き込んだあと帰路に付き自宅で彩色した。
あらかじめ用意された予約席を見るとÅ席140名、B席50名が用意されていた。来場者に神社北門入り口で西宮能楽堂手ぬぐい、西宮神社えびす団扇、甘酒、日本酒ソーダがお土産に渡され、自宅で美味しくいただいた。(了)