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エッセイとショートショートと―あちこち話が飛びますが

インド人のあくび

2006-04-23 09:41:20 | エッセイ

 インド人はヒマそうであくびばかりしている、という話ではない。その逆で、インド人はあくびをしない、という話。

 人口10億以上のインドは失業率も高いようで、平日の真っ昼間でも、道路にはものすごくたくさんの人がいる。この人たちはやることがないのだろうか、と思うと同時に、未整備の道路なんか、この人たちが手を貸せば、あっという間に出来上がっちゃうんじゃないかという気もする。
 粗末と言っては失礼だが、それぞれの店先には、店番のほかに、客だか何だかわからないのがたくさん群がっている。何をしているのかよくわからないが、さほど忙しそうには見えない。日本人が珍しいらしく、ほとんどの人は横を通るとジロッとこちらを見るのだが、その目はアーリア人特有の、まつげの長い、透きとおったものだ。中には置物用に石を一心に削っているのもいたが、ほとんどは何だかヒマそうだった。

 そんな人たちを眺めていて、奇妙なことに気が付いた。あくびをしている人がいないのだ。ヒマそうに店番しているから、「アワワワ…」とあくびしているのが1人くらいいても良さそうなものだが、5日間滞在した中で、まったく見当たらなかった。それは道端に限らず、訪問先の会社でも、空港でも同じ。
 思うに、彼らの国は酒を飲まないヒンズー教だから、あまり夜更かしもしないし、眠りも深いに違いない。テレビも中流階級以上の家庭にはあるにはあるのだろうが、あまり遅くまで見ないのに違いない。信心深い彼らのことだから、酒も飲まずテレビも見ず、早くに寝てグッスリ眠っているのだろう。健康的だ。きっと頭もスキッとしているのだろう。
 テレビといえば、映画『踊るマハラジャ』みたいな番組がやたらとあった。ちょび髭の男がきれいな女性と、たぶん愛の歌を歌いながら街中や公園や木の下で踊るというもの。物珍しくて見ていたが、言葉がまったくわからないこともあって、すぐに飽きてしまった。

 道行く人たちを見てもう一つ気付いたことがある。ぺちゃくちゃしゃべりながら、ガムを噛みながら物を食べながら、タバコを咥えながら、といった、日本では普通に見られることがない、ということだ。手をポケットに入れていたり、キョロキョロしたり、ということもなく、歩き方に“由緒”というものがあるならば、まさに由緒正しい歩き方をしていた。(中国人は逆に、物を食べながらワイワイおしゃべりしながら歩く。インドのあと中国へ行ったので、その落差が印象的だった)
 メガネを掛けているのが老人以外はなく、透きとおった目が余計目立つのだが、これも夜更かしをしないからだろう。まばたきが非常に少ないのも、心が安定していることを窺わせた。文明社会にありがちなストレスというものが、きっと少ないのに違いない。

 竹村健一氏と榊原英資氏が『インドを知らんで明日の日本を語ったらあかんよ』という対談集を出しているようだが、インドはここのところ、年間7%の経済成長率を遂げており、さらには10%をも目指しているらしい(日本は現在3%弱)。
 貧富の差はまだまだ残るにせよ、教育が行き届き(インドのインテリはすごく頭がいいらしい)、社会のIT化が進んだならば、酒も飲まず常に“覚醒”している彼らが力を付けたならば、ものすごいパワーを発揮するに違いない。
 しかしそうすると、あくびをするインド人も出てくるのかもしれないのだが。

(これでインドに関する話はとりあえず終わり。次回は、お待たせしました、中国について)
コメント
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