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エッセイとショートショートと―あちこち話が飛びますが

「追いかけてヨコハマ」

2008-02-10 09:56:47 | ショートショート
 むかしむかし、海辺のとある村に大浜と小浜という、それは仲のいい姉妹が住んでいました。早くに両親を亡くしてしまったのですが、その分2人で力を合わせ、幸せに暮らしていました。

 姉の大浜は、とても気が強いものの体が弱く、寝たきりの生活をしていました。その昔、将来を誓い合った許婚(いいなずけ)がいたのですが、病弱のため、残念ながら一緒になることは叶いませんでした。
 一方妹の小浜は、とても気が弱いものの体は丈夫でした。ですから生計は、小浜が働いて立てていたのでした。小浜の方も美しい顔立ちをしておりましたが、姉の看病のため、嫁に行くこともなく、せっせと働きに出掛けるのでした。

 ある日の夕方、2人の住む家に男が押し入りました。小浜は働きに出ており、大浜がひとり、床に臥せっているところでした。帯や髪飾りなど、数少ない金目の物を持って行かれそうになりますが、体の動かせない大浜は、男に向かってなじるよりほかどうすることもできません。
 ただ、よく見るとそれは、あの許婚でした。なかなかの色男だったのですが、どこかで人生を踏み外したのでしょうか、昔の面影はまったく見られなくなっていました。そんな境遇になってしまったのは悲しむべきことではありましたが、それはそれで、大浜はなじるのをやめることはありませんでした。
 そこへ帰ってきたのが小浜です。でも気の小さい小浜は、家の中を男が物色しているのを見て腰を抜かしたまま、何もできません。

 わずかな収獲を手に見すぼらしく出て行こうとする元許婚を目で追いながら、布団から上半身だけ起こした大浜は、入口の土間でへたり込んでいる小浜に言いました。
「追いかけてよ! 追いかけてよ小浜…」

 ジャン! ♪追いかけてヨコハマ あのひとーがぁー逃げるぅー


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