小浜のあと、天橋立を経由して伊根へ。
関西以外ではあまり知られていないようだが、ここは〈舟屋〉と呼ばれる海に面した家々が建ち並ぶ、静かな港町。200軒以上が、伊根湾をぐるりと囲むようにして立っている。
疲れた足を海で冷やしていると、小学生の男の子が「何してるんですか?」と寄ってきて、しばらく話をしていた。街じゃまず考えられないことだ。今どきまだこんな子供がいるということが、旅で緩んだ心に沁みたものだ。
そう、ひとり旅のいいのは、この「心が緩む」というところ。電話やメール、それに周りからの視線や意見・考えをまったく気にしなくて済むというところにある。普段はどうしても人の思惑に縛られ、仮面をかぶって生きているものだが、そこからすっぽり離れられるというのは、精神衛生上とてもいい。1日でも2日でも、丸々そういう時間が持てるのはいいことだ。
今回は3日間だったのだが、いずれまた忙しい日常に戻るにせよ、どこかでそういうリセットの時間が持てて、〈素の自分〉に戻れるということが確認できるだけでも、その後の励みというか自信になる。
ほとんど口も利かず、自分の思考の流れのまま、好きなように考え事ができるのもいいところ。「なぜ葉緑体は緑なのか」とか「神はあるのか」てなことが考えられるのも、こういう時。ショートショートのネタも、よく思いつく。
ろくに調べもせずに予約した民宿(与謝荘)だったが、すぐ目の前に海を見ながら食事もできたし(刺身がウマかった!)、テレビもなくて、ゆっくりすることができた。
そこのご主人と話もできて良かった。ただ、後継者のこととか、やはり不便なところとか、通りすがりの人間ではわからない悩みというのはやはりあるようだ。またご主人からは、「旅というのはその土地の人と触れ合ってこそ」ということを、改めて教えてもらった。
昔から辺鄙な所(失礼!)だったせいだろうか、近くには浦島伝説の残る神社とかあるそうだ。だからというわけでもないが、ガソリンが再度値上げになったことなど、「ああそう言えば」と、こちらもすっかり浦島状態になっていたのでした。