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エッセイとショートショートと―あちこち話が飛びますが

「モテモテ男の物語」

2018-12-02 08:30:24 | ショートショート
 元々は男の方から始めたようだが、勤め先の会社で何人かの女性から、手を振られているようだ。
 廊下で会うたび、あるいは窓ガラス越しに見えるたび、ニコッと笑いながら小さく手を振ってくる女性たち。
 そして保険のかわいいお姉さんとも仲良くなり、食事に行ったりサッカーの試合を見に行ったりしているらしい。

 業界の活動に出たら出たで、酔っ払って転んでメガネ壊した話をしたことがキッカケで他の会社の女性たちからメガネのことで軽くイジられるようになり、やはりここでも別れ際に手を振られる始末。
 また何人かの女性とは、たまに飲みに行っているらしい。どこまで深く付き合っているのは知らないが。
 さらに、別れたはずのキャバクラの女の子からは「これまでのこと思い出していたら泣けて来て、会いたくなった」と連絡があり、また会うようになったとか。
(もちろん相手は客商売だからうまく言いくるめられているのだと思うが、キャバクラの子に惚れさせたのだとすれば、大したもの)

 と、こう書くとチャラチャラしているようだが、仕事ぶりは至ってマジメ。会社でもそこそこの地位に就いている。どちらかと言うと無口で、冗談もたまに口にするくらい。

 海外出張に行けば、現地(北京)のきれいな子と仲良くなった模様。「北京の美人」(BeijingのBijin)と冗談まで言う仲に。その美人からは「また会いたいです」というメールが来たとか来ないとか。
 その出張から帰って来ると、会社の女性陣からは待ってましたとばかり「お帰りなさい♡」と言われるし、お土産を配ったら配ったで女性陣が揃って「ごちそうさまでした♡」とお礼に来るし。

 とは言えいいことばかりでもない。何より怖いのは男同士のやっかみ。
 その人柄から男たちからも(変な意味でなく)好かれてはいたのだが、やはりその点については彼も気を付けているようだ。
 手を振られているのを見られないようにしているのはもちろん、女の子と立ち話している時はできるだけ事務的な口調にしてやり過ごすように。

 定年も近いので、ひょっとしたらねぎらわれているのかもしれない。ただ、食事に行った女性は必ずと言っていいほど「とても楽しかったです。また誘ってください」というメールをくれるらしい。(そう面白い男だとは思わないのだが)
 これで愛妻家なのだから、ちょっとビックリ。奥さんと手をつないで歩く姿を見かけた人もちらほら。

 …筆者の見当違いでなければ、こんな幸せな男はいないんじゃないか。
 いやひょっとしたら、人には言えない大きな悩み事でもあるのかもしれない。ともあれ今日もまた、女の子から手を振られている、はず。


  Copyright(c) shinob_2005


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