私の最も好きな、かつ尊敬する指揮者=オットー・クレンペラーのつくる音楽を前にすると、解釈がどうの、音色がどうの、テンポがどうの・・・と いうような批評家的言説はすべて色を失う。
まるで大自然そのもののような豊かさと美しさと厳しさをもつ音楽は、比較を絶しているからだ。
音の存在感、響きの強さー大きさに圧倒され、全身が痺れてしまう。
ひとつひとつの音は十全に鳴り切り、一音一音の固有のエネルギーは完全に解放されている。音楽は巨大でゆるぎない安定感をもち、透明な美しさが空間を満たす。
インテンポで悠然としているが、呼吸の深さとリズムのよさは、他に例を見ない。
クレンペラーの鳴らす音楽は、まさに人類の至宝である。
クレンペラーにとって、他者の批評などは眼中にない。聴衆に媚を売ることも、受けをねらうことも一切ない。音楽だけが絶対なのだ。彼は、金力も権力もはるかに下に見下している。自足し微動だにしない。人並みはずれた愛と情熱の持ち主だが、テンポは一定で、客観性を失わない。
しかし、不思議なものだ。生前は、イギリス以外では人気のなかったこの無愛想で玄人好みの「巨匠」が、死後30年以上たった今、全世界で高い評価と人気を得るようなっている。わたしが高校生の時から「時代に抗して」支持してきたクレンペラーの再評価は、何とも喜ばしい限りである。
クレンペラーの指揮する音楽を聴いてみようと思う方にお勧めするレコード(CD)は、ありすぎて困りますが、彼が83歳の時に録音したマーラー交響曲9番の第4楽章は、ぜひ聴いて欲しいと思います。この形而上的な美に震撼しない人はいないでしょう。 東芝EMI―TOCE3235・36。
ベートーベンのシンフォニーからという方は、まず3番(英雄)をどうぞ。今年6月に再発売されたCDは、音質が大幅に改善されて、1959年の録音とはとても信じられません。余白には、エネルギーの横溢する超絶の名演―「レオノーレ」序曲第3番も収められています。東芝EMI―TOCE13004-定価1300円!は、安すぎます。買わなければソン?
暮です。第九をという方は、1957年のロンドンでのライブをぜひお聴き下さい。フィルハーモニーオーケストラとコーラス、ルードヴィッヒ、ホッターなど最高の布陣で演奏された純音楽的名演を堪能して下さい。CDは、テスタメント.SBT1177です。輸入盤ですが、容易に入手できます。
ほんものの音楽―芸術の力の偉大さをぜひ共に味わいましょう。心と頭と体=全身が痺れます。
(2004年12月7日)