思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

【曖昧さ】の価値ー戦争から逃げるという知恵

2007-05-21 | 社会思想

万が一、自国が攻撃を受けた場合以外は、いかなる理由があろうと、決して戦争をしないようにするには、どうしたらいいか?
それを考えることに集中すべきであり、「世界の安全保障を」と考えることは、必ず悪い結果にしかなりません。これは近・現代の歴史がすでに証明済みの話です。

小泉政権後の日本政府の言動をみると、明らかに、アメリカとの軍事的一体化の道を突き進んでいますが、「世界の安全保障」という原理的に不可能な思想をもつアメリカ軍との一体化は、戦争やテロに巻き込まれる危険を増大させるだけの話であり、まったく日本の国益にはなりません。

不可能な理想を追うロマン主義に陥れば、政治はおしまいです。政治ではなく軍事が台頭するほかなくなります。現実を見据える厳しい目と思索の力が後退して、子どもじみた【戦争ごっこ思想】へと落ちていきます。ある理念やロマンを絶対化する悪しき純粋志向は、自他の【現実】を破壊してしまうのです。

これは個人間でも国家間でも同じです。違いや対立はあって当然ですが、それが破壊・戦争へと発展してしまうのは、【ロマン・理念主義】からです。理念やロマンは、「私」=個人のレベルで持ち、育てるものであり、他者に強要しようとすれば、おぞましい結果を招きます。とりわけ自我主義の極北である【集団的ロマン】の追求(例えば、戦前のわが国の八紘一宇・天皇現人神というロマン)は、そこに属する人々を、狂気の現実に投げ込んでしまいます。

自分の生き方の首尾一貫性は、充実した人生の条件ですが、他者との関係においては、よき【曖昧さ】が必要です。曖昧さを享受できなくては、豊かで実り多い関係にはなれません。話を戻しますが、戦後の歴代首相の多くは、このよき曖昧さを持っていました。それが日本の安全を支えていたのです。日米安全保障条約を維持しつつ、同時にアラブ諸国との関係も良好なものにし、また中国と国交を回復し(田中角栄)・・・という訳です。

少なくても外交においては、どちらかに振り過ぎないという知恵が必要であり、それが政治です。政治の力が弱まれば、軍事に頼る他なくなりますが、これほど【愚かで損】なことはありません。歴史をみれば分かりますが、軍事費の負担の重さで巨大国さえもみな沈んで行きました。集団的自衛権の行使を前提とした日米の軍事的な一体化は、底なしの負担を「嫌」とはいえない深い関係に堕ちていく道でしかありません。

バランスの知恵、戦争から上手に逃げるための知恵、戦わない知恵こそ「最高の英知」です。

武田康弘



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