思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

『十五の心』(クラリネットとピアノ・大島姉妹)日本語の美しさを≪器学≫で味わう

2008-03-21 | その他
白樺派・柳宗悦(やなぎむねよし)と共に「民芸」運動を進めた夫人の柳兼子(かねこ)は、日本最高のアルト歌手であり、孤高の作曲家・清瀬保二(きよせやすじ・武満徹の師としても知られる)の歌曲の初演者、紹介者でもありました。ドイツリートの見事な解釈で日本をリードし、ドイツ本国でもドイツ人歌手以上!との批評を受けた兼子は、
同時に、歌曲としての日本語のよさ・美しさを追求し、新たな歌唱法の確立に至ったのです。
(作曲家の清瀬保二の音楽は、足が地についた健康な精神が生みだすもので、品位が高く、しっかりとした身体性を伴っています。現代の日本人が忘れている心と風土の世界を表していて、なつかしく、且つ新鮮です。心から心へ直接伝わる珠玉の名作は、素朴にして高貴であり、独創にして自然です。)

柳兼子さんは80歳を超えてもなお新たな挑戦を続け、演奏会を開き、幾つものレコード(現在はCD化されています)を出しました。戦中に戦争協力を拒否したために活躍の場を奪われましたが、斎藤秀雄(小沢征爾等「サイトウキネンオーケストラ」に集う人たちの師))をはじめ日本の有力な音楽家には最高の歌手として認められ、韓国では「神」のように尊敬され続けた兼子さんには大勢の弟子がいました。その中でただ一人の内弟子であったのが大島久子さんです。久子さんの親友・松橋桂子さん(清瀬保二のお弟子さん)の大著『柳兼子伝』に依れば、ご主人の大島恵一さんも若いころは兼子さんに師事していたとのことです(後に東大教授、OECD科学技術工業局長)。

前置きが大変長くなりましたが、昨日、大島久子さん(84歳)から頂いた『十五の心』ー「詩」を奏でる・クラリネットとピアノで綴る日本の歌―という最新録音のCDをご紹介しようと思ったら、歴史を書くはめになりました。http://www.amazon.co.jp/%E5%8D%81%E4%BA%94%E3%81%AE%E5%BF%83-%E5%A4%A7%E5%B3%B6%E7%9B%B4%E5%AD%90-%E5%A4%A7%E5%B3%B6%E6%96%87%E5%AD%90/dp/B0013HUW8O/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=music&qid=1206070681&sr=1-1

このCDの演奏者の大島文子(クラリネット)さん・直子(ピアノ)さんは、大島久子さんの三女・二女です。わたしは、二女の直子さんの運転するアルファ・ロメオで都内を疾走!(恐怖)したことがあるのです(笑)。脱線しましが、このCDを昨晩から3回通して聴き、とても素晴らしいと思いましたのでご紹介します。以下に、文子さんと直子さんの書かれた一文を載せます。

「二人で演奏をはじめて、かなりの時間が過ぎました。やっと二人とも心の雑念がとれて、素直な気持ちで自分の心表現できるような気がします。・・母は声学を学んでいましたので、遊びほうけていた子供の頃から、歌は私たちにとっては身近なものでした。その母の恩師は柳宗悦夫人の柳兼子です。・・柳兼子が歌った石川啄木の「不来方」(こずかた)を聞いた時、涙が溢れ出た感動を今でも覚えています。・・この啄木の「不来方」の最後の節の言葉である「十五の心」を、私たちのこのCDのタイトルにしました。
楽器でいかに日本の歌を演奏するか?これは、「表現する」とは何なのかということに通じるような気がします。・・同じメロディーでも歌うときに「詩」が違えば、違う表現をしなければいけないのです。・・楽器を演奏しているという雑念があっては、このことは表現しきれない事に気がつきました。どうやって同じメロディーで違う「詩」を、そしてその「詩」の持つ本当の深い意味を表現できるかという事が、私たちが長年取り組んできたテーマです。このことに挑戦するために、全曲、日本歌曲でまとめ、器学のCDではありますが、歌詞を載せました。
私たちの演奏でその歌詞を、そして、日本語の持つ表現の美しさを感じていただければ幸いです。」

まことに見事なコンセプトであり、演奏も実に美しく共鳴します。このCDを聴いて心やすまらぬ人はいないでしょう。ただ、ひとつだけ残念なのは、柳兼子さんが晩年もっとも熱心に取り組み、一番高く評価していた清瀬保二さんの曲が入っていないことです。直子さん、文子さんのコンセプトを深め、独創の境地を切り開くことにもなりますので、次回のアルバムではぜひ入れて下さいね。期待して待っています。


武田康弘
コメント
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