★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

生涯一書生は馬上に棲む

2014-05-26 23:43:47 | 文学


生涯一書生――といふのが、私の生活信條である。[…]つまり、正面から掘り進んではどうにも掘り拔けなくなつた場合、一寸氣分を變へて、今度は横へ廻つてみる。すると、今までどうしても掘り拔けなかつたものが、何んでもなく易々と掘り進めるやうになる。面白いやうに向ふからボロボロ崩れて來ることにさへなる。
 この邊のコツは、獨り執筆に際してばかりでなく、人生のすべてに對して又大切なことがらではあるまいか。
 ともあれ、伊達正宗の詩にもあるやうに、「青年馬上に棲む」といつた氣持、常に戰場に馳驅し、奔走する氣持、そこには、ハチ切れるばかりの精氣と、活氣と、それから餘裕とが充ち溢れる。「疲れ」もなければ「倦み」もない。

――吉川英治「青年・馬上に棲む」