生涯一書生――といふのが、私の生活信條である。[…]つまり、正面から掘り進んではどうにも掘り拔けなくなつた場合、一寸氣分を變へて、今度は横へ廻つてみる。すると、今までどうしても掘り拔けなかつたものが、何んでもなく易々と掘り進めるやうになる。面白いやうに向ふからボロボロ崩れて來ることにさへなる。
この邊のコツは、獨り執筆に際してばかりでなく、人生のすべてに對して又大切なことがらではあるまいか。
ともあれ、伊達正宗の詩にもあるやうに、「青年馬上に棲む」といつた氣持、常に戰場に馳驅し、奔走する氣持、そこには、ハチ切れるばかりの精氣と、活氣と、それから餘裕とが充ち溢れる。「疲れ」もなければ「倦み」もない。
――吉川英治「青年・馬上に棲む」